『五星戦隊 ダイレンジャー』〜19. ドキドキ美少女〜
1993〜1994年公開(日本)
監督、小林義明・坂本太郎・小笠原猛・東條昭平・渡辺勝也
脚本、杉村升、荒川稔久、藤井邦夫、高久進、井上敏樹
地球侵略をもくろむ妖力使いゴーマ族と、気力を操るダイレンジャーが地球を守るために戦う。
※ネタバレあり
第十九話目です(最初から読む)。
オープニングの挿入は三人官女(怪人体)と人力車に乗った阿古丸です。
二人しかいない三人官女に、末妹が亡くなったことを再認識させられます。「いざ、出陣」というような歩き方に、仇討ちへの決意を感じます。
それを表すかのように、途中の挿入もキバレンジャーと三人官女(指輪官女・ネックレス官女)が闘っているシーンとなっています。
OP後。
人力車で夜道を走る阿古丸から始まります。阿古丸はやたらと人力車で走っているイメージですが、どこにお出かけしているのか気になります。
ふてぶてしい座り方が面白いです。キャラ立ちしています。
考え事中の阿古丸くん。
「私はありふれたやり方などしない。じわじわとキバレンジャーをゴーマに引きずり込んでやる」
子供の声と言っていることのギャップが激しくて恐ろしいです。
宣言通り、阿古丸は戦略的にじわじわコウの精神を蝕ませていきます。
そもそもなぜキバレンジャーをゴーマにするなんて発想が出てくるのか? それは徐々に明らかとなっていきます。
普通の人でもアイデアをまとめるのに散歩しながら……ということがありますが、阿古丸のお出かけもそういうことなのかもしれません。
そこに現れるシャダム中佐。
「いつまで奴の正体にこだわってる。奴はつぶすのみだ」
なんだかんだで阿古丸が気になるシャダムさん。
「父上。ゴーマの力の源は?」
「わかりきったことを。ゴーマの力の源。それは憎しみ」
「そう。私も憎しみでここまで来た。私を捨てた、あなたと母親への憎しみでね」
阿古丸の嫌味が炸裂します。嫌味を言うということは、それだけ気持ちがあるということですが。
「キバレンジャーにも憎しみを抱かせ、ゴーマにする」というのが阿古丸の作戦です。
「そうすれば奴の心には必ずゴーマの血がたぎる。秘められた力が発揮されるんだ!」
意味深なことを叫んで去っていく阿古丸。「やれやれ」という感じで見送るシャダムが何とも言えません。
「ゴーマの力の源が憎しみ」というのは、興味深い設定です。強ければ強いほどに何かへの憎しみをたぎらせている――。ゴーマ側キャラのすねの(心の)傷が見え隠れします。
朝になり、コウを起こすリン。寝坊のふりをしてスカートめくりをしたりと相変わらずめちゃくちゃです。
すっかり同居生活になじんでいます。
登校すると、転校生が紹介されていました。清楚で可愛い女の子にゆるむコウの顔……リン姉ちゃんはどうした!
女の子の名前は「柊 香澄」。ダイレンジャーのキャラクターには珍しく苗字があります。
BGMと共にテロップされる「ドキドキ美少女」が不穏です。
コウの学校前に現れる赤いオープンカー。知の車ですが、改めて見るととても派手で異色です。
「やっぱやめましょうよ。せっかくの土曜日に子供の相手なんて」(知)
「けどあいつリンのスカートめくったり胸触ったりしてるっていうんだぜ。許せねえじゃんかよ」(将児)
土曜日の半登校……懐かしい!
そして将児……やっぱりリンが好きなんだなあ。というかコウと精神的に同レベルな感じがします。
「うらやましい」と将児がつぶやいた時の、知の「えぇ」という反応と、取り繕う将児が面白いです。これも青春なのでしょうか。
しかし、コウを捕まえることはできず、逆に荷物を預けられてしまいます。
知のやれやれという笑顔がナイスです。演技が細かい。
スケボーでどこかへ急ぐコウの前に、阿古丸が現れます。
コウのわけわからないという表情が面白いです。たしかにいきなりこんな子供が現れたら呆然とするしかない。
「挨拶に来てやったよ」(阿古丸)
「挨拶?」(コウ)
ツッコむところそこなの。
コウの後ろに現れる指輪官女とネックレス官女。コワイ。
「さあ、転身しな。転身しないと死んじゃうよ」(阿古丸)
阿古丸はゴーマの大人の前だとこまっしゃくれていますが、コウ相手だと子供っぽいしゃべりになります。一人称も「私」から「僕」になったり。そういう細かいところの積み重ねがキャラクターの人格を作っていくのだなと感心します。
ピンチのコウに、白虎が言います。
「キバレンジャーの正体を確かめに来やがったんだ。うかつに転身すんじゃねえぞ」
なんという無茶ぶり。
ほぼ確証を持ちながらも100%にするために、襲って確認しようとするところがしっかりしています。
そこへ駆けつける知と将児。緊迫したシーンの中「コウくんに何するんですか!」という言い方が丁寧で何か面白かったです。
阿古丸は「邪魔はさせないよ!」というしゃべり方も子供っぽかったですね。
今回、二人は走りながらオーラチェンジャーを挿さずに転身しました。
闘いを引き受けた指輪官女と二人がバトル。それを眺める阿古丸たち……ふっと、コウの方を見ると、
「いない!」
うぉい! せっかく指輪官女が引き受けてくれたのによそ見しているからっ!
シリアスなシーンなのにちょっとお間抜けで可愛いです。
コウは白虎真剣を置いて走ります。
阿古丸とネックレス官女に追いつめられるコウ。絶体絶命のところで、白虎の声が響きます。
コウがキバレンジャーのはずなのに、他から声が響くので、当然二人は困惑。作戦は成功しました。
コウも阿古丸も子役ながら演技がとてもうまいです。表情とか。
キバレンジャーに転身しても子供姿の時と同じ動作をするのが面白いです。
しかし、キバレンジャー、「待ち合わせに遅れちゃう!」と叫んで戦闘を放棄。去っていきます。
コウは香澄ちゃんと待ち合わせをしていたのでした。ネタバレになってしまいますが、香澄ちゃんは阿古丸が仕組んだ存在なのです。
キバレンジャーが待ち合わせに遅れる……と言っていなくなるということは……阿古丸側から見ればもうほぼ確定ですよね。
知・将児と闘っていた指輪官女も含めて敵側が全員撤収するところが、伏線になっています。
「待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫」
そりゃそうだよね。さっきまで一緒にいたもんね!
この時の二人の会話で、コウも転校生であることがわかります。リンの家に引っ越してきたときに新しい学校に転校したということなのでしょう。クラスにはけっこうなじんでいるように見えましたが。
強調される手をつなぐシーン……!
遊園地デート中、「コウくんのママはどんなママ?」と香澄ちゃんは聴きます。「母ちゃんはいない」と答えるコウ。
「でも死んじゃったんじゃないよ。みんなはそういうけど、僕はいつか会えるって信じてるんだ」
「会えるわよ。絶対」
力強く答える香澄。
いろいろな意味で、ちょっと切ない会話です。香澄ちゃんの想いも、この台詞には入っているのではないかと思います。
コウが思い出すお母さんの姿が、焼きごてを押し付けてくるところばかりなのが悲しいです。それでもお母さんを信じている。
アイキャッチはキバレンジャーです。
夜道。手を繋いで帰る二人。
「ごめん、けっこう遅くなっちゃった?」(コウ)
「ううん。全然平気」(香澄)
いや、けっこう洒落にならない辺りの暗さだと思うのですが……(汗)。
香澄ちゃんを家まで送ったコウは、信じられない光景を目の当たりにするのです。
「もうお友達ができた」と嬉しそうにする香澄の手を「汚い手で触らないで」と振り払う香澄ママ。晩御飯も用意せず、香澄ママは一人出かけていきます。
これは辛い、気まずい……。
母親に冷たく当たられる彼女を見て、コウの心も沈んでしまいます。
一方、ゴーマとのひと悶着の中、姿を消したコウをダイレンジャーは心配していました。
「なぁに!? 遊園地行ってた!?」(亮)
という亮の呆れた素っ頓狂な声が場を少しなごませてくれます。
「俺たち心配して探し回ってたんだぞ」(大五)
「ごめんなさい」(コウ)
心配して叱るのが真面目な大五であるところがいいですね。
やたらしおらしいコウをリンは心配します。
なんだかんだでわんぱくなコウの性格が受け入れられていてホッとします。
将児も何か思ったようです。夜の公園に来たコウを見守ります。
これはコウが改めて一人で出かけたのを追いかけてきたのか、将児が話を聞こうと呼び出したのか気になります。どちらもありそうですが。
「いるはずないよね。子供が好きじゃない母親なんて」
「やっぱなんかあったのか」
「ないけどさ」
香澄ちゃんの家庭事情を安易に話さないところが偉いです。
「母ちゃんの愛はマリアナ海溝より深いってな!」
励ます将児。母一人子一人の家庭で育ったという将児の言うことだから説得力があります。
彼も父親がいなかった、また、やんちゃでグレていた時期もあるから、コウの心境に重なる部分がいろいろとあるのでしょう。
「母ちゃんは絶対子供が好きなもんさ」
こういう問題はすごく難しいと思います。
将児の言葉を信じたいけれど、世の中には現実に母親に愛されない子供もいるわけで。希望があるようでけっこう残酷な台詞のような気もします。
今のコウの心を励ますという意味ではいいと思います。
翌日、香澄ちゃんの家へ行くコウ。家の中から香澄の声が聞こえます。
それにしてもこの作戦のために家をまるごと一つ用意したのか……。住所の取得とかいろいろと大変だったのではないでしょうか。
家庭訪問を拒否する母親を香澄ちゃんが説得しています。「ママ、お願い。転校してきたばかりだから先生もお話聞きたいって!」二人の会話がやたらとリアルなのが心をえぐられます。
さらに、諦めない香澄の手をひねり、つねるという虐待が行われます。
その姿に、焼きごてを押し付けられる記憶を重ねるコウ――。この辺の心情の流れがリアルです。
「ママは、パパとお別れしてから、前よりずっとひどくなったわ。私、パパに似てるし」
やたらリアルな事情やめてーー!
香澄ちゃんの台詞は一つ一つが悲しくなってくる内容です。バックグラウンドを考えると、ただの阿古丸の台本ではないその奥にあるものを感じてしまいます。「きっと実際、そんなふうに考えているのだろうな」と。
「ママは、私のことなんて嫌いなのよ」
「そんなことないよ。香澄ちゃんのママだって本当は優しいはずだよ」
「そんなことない。ずっと信じてたけど、ママは違うわ」
コウの心を揺さぶりにかかっている!
「子供のことを好きじゃない母親なんて、いないよ」
「どうしてそんなことが言えるの?」
「わかんない。わかんないけどそうなんだ」
悲痛なやり取りです。「わかんないけどそうなんだ」というところにグッときます。香澄ちゃんのママの話ではあるけれど、コウの自分の母親を信じたくて仕方がない気持ちが表れています。
ここで、香澄ちゃんが核心に迫ります。
「じゃあ、あなたのママはどうだったのよ」
答えられないコウ。
そこで、イヤリング官女が香澄ちゃんを襲って連れ去ってしまいます。
疑惑だけ投じて、強制的に話を切り上げる手腕はさすがです。
香澄ちゃん、謎のパンチラ(ブルマ)。
このシーンはこの角度でなければいけなかったのか!?
スカートの中が映らない撮影の仕方ができなかったのか!?
「お前と親しくなったのがこの子の不幸だわいな」(ネックレス官女)
何という理不尽。しかし、自分のせいで他人に迷惑がかかるのは一番腹立たしいことですね。
後をつけていた将児が飛び出します。しかし、指輪官女の技で拘束されてしまいます。
「指輪官女!」ときちんと相手の名前を把握して呼びかけるところがいいですね。
香澄ちゃんを抱えて走るネックレス官女をコウが追いかけます。ダイレンジャーは怪人が子供を抱えて走るシーンがよくありますが、何度見てもシュールです。
香澄ちゃんを見失ってしまうコウ。代わりに、テニスコートにいる香澄ママを発見します。香澄ちゃんがさらわれたことを伝えますが、相手にしてもらえません。しかもただ関心がなくて相手にしないのではなく、こんなことまで言います。
「どうせ嘘に決まっているわ。私の気を引こうとしているだけよ」
無駄にリアリティがある台詞でえぐいです。誘拐されても気にしない、よりも誘拐されたと嘘をついて気を引こうとしている、として相手をしない。ここまで現実にありそうなラインをついてくる必要があるのかっ。
「そんな母親だっているの」。残酷で、ある意味、名台詞だと思います。
一方、指輪官女に苦戦するテンマレンジャー(将児)。他のメンバーもそろいます。
「可愛い妹の恨みを晴らさせてもらう」という指輪官女に敵ながら情を感じます。
テンマレンジャーと一騎打ちに。「テンマレンジャーVS指輪官女」。
「勝負は預けた」のフェイント――からの「隙あり!」にはびっくりさせられます。
こんなのありかよ……。
敵の中でも雑魚ではない幹部のお付き級がこんな手を使うだなんて。
まあ、主人公ですら「隙あり」しますからね、この作品は。
真剣勝負に卑怯も何もない、というのがダイレンジャーという作品のスタンスのようです。
テンマレンジャーの「え」が素で面白かったです。
また、勝負は預けた、と言われたら、追い打ちはかけないところが素敵です。
香澄ちゃんを探し、怒りに燃えるコウ。コウを探すダイレンジャーメンバーで、次回へ続くとなります。
コウ編はいろいろとへヴィーです。
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