『ねのくに』
※ネタばれ含む
団地を追い出された猫が伝染病にかかり、死にゆく夢の中で飼い主やアパートの住人に復讐するというお話。
団地はペットが禁止となり、飼っているペットはすべて殺処分にすること、今後飼っていることが発覚したら追い出すというむちゃくちゃな状態になってしまった模様。飼い主は猫を保健所に連れていくのが忍びなく、遠くの街に捨ててきたのでした。そう考えると、アパートの管理人が一番悪く、飼い主もかわいそうだなという気持ちになります。
捨て猫は必死にもとにいた街に戻ろうと旅をし、その途中で伝染病にかかり倒れてしまったのでした。
『猫草』に続いて何とも胸糞の悪くなるお話です。
伝染病が移るという野良猫たちの忠告を無視し、チビ猫は捨て猫の看病をします。
この時の野良猫のやりとりが名言だと思いました。
「おれ…ガキは信用していいと…思ってた」(若い野良猫)
「ガキはなっ サギとドロボーの天才なんだよっ」(中年の野良猫)
「ドロボーって」(若い野良猫)
「かっさらうだろうっ おれ達の心をっ」(中年の野良猫)
大人の気持ちを知らない子供の行動を嘆く心と、野良猫たちがチビ猫のことを大切に思う心がわかります。
チビ猫は元の飼い主を連れてこようと団地まで行きますが、ペットたちが殺処分された現実を知り、そのまま帰ってきます。
そして、捨て猫は夢の中のモグラたたきで、飼い主やアパートの住人をたたいているという話をします。
再びチビ猫がアパートに行くと、モグラたたきの通りの惨状が起こっているのでした。
殺処分した動物や、捨て猫に謝るように必死で叫びますが、住人に声が届くわけもなく。団地はほぼ壊滅状態となってしまいます。
読みながらチビ猫が感じたであろう絶望と同じ絶望を感じました。
肩を落として野良猫のところに戻ってきますが、その姿はありません。代わりに花輪がおかれていました。
そして若い野良猫が現れ「あの猫は花輪になってしまったんだよ」と見え透いた嘘をつきます。中年の野良猫が、捨て猫が死んだ事実を告げます。
そして、伝染病が移っているであろうチビ猫も、もうすぐ死ぬであろうと……野良猫たちは考えていました。チビ猫本人にその事実は告げませんが、須和野家に帰るように促します。せめて最後は飼い主のところで死ねるように。
家に帰ったチビ猫の様子を、野良猫たちは外から観察します。
「しっかり我々がみとどけて ラフィエルに報告せねばならん」
久しぶりにラフィエルの名前が出てきた気がします。もう姿は現さないとしても、チビ猫はラフィエルにとって特別な存在(ホワイトフィールド)なのだと、野良たちも認識しているみたいですね。
その元を去っても時が過ぎようとも思いは変わらない、関係はなくならないと思うとなんだか素敵だと思います。それが特別強調されるわけでもなく、当たり前のようにこのような台詞が入るところがイイです。
一向に死なないチビ猫(笑)。一晩明けてもまだ元気です。元気にお出かけするチビ猫を野良猫たちは必死に追いかけますが、最終的にはチビ猫に捕まってしまいます。若い野良猫にぴったりと引っ付くチビ猫が可愛いです。
チビ猫は以前に予防注射を受けていたので、伝染病にかからなくて済んだのです。そのことを野良猫たちに話しても、誰一人予防注射に行くものはいませんでしたとさ。めでたしめでたし。
この話は捨てた猫や殺したペットたちの怨念によって惨事が起きる様子がとても怖かったです。
ペットを飼うということの責任について考えさせられます。
そして、ご飯を食べる量も増えて、少しずつ少しずつ大人になっていくチビ猫の姿も描かれていました。
チビ猫がホワイトフィールドになる日もそう遠くはないのでしょう。
↓他の話の感想↓(◎お気に入り)
(単行本の一巻を持っていないので『ピップ・パップ・ギー』以降の話となります) 『綿の国星』 ◎
『ピップ・パップ・ギー』『日曜日にリンス』 『苺苺苺苺バイバイマイマイ』◎
『八十八夜』『葡萄夜』
『毛糸弦』◎
『夜は瞬膜の此方』『猫草』
『かいかい』『ド・シー』『ペーパーサンド』
『チャーコールグレー』◎ 『晴れたら金の鈴』
『お月様の糞』◎
『ばら科』
『ギャザー』◎
『ねのくに』
『椿の木の下で』◎
(クロックロの書斎LINEスタンプ)
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