『かいかい』
※ネタばれ含む
時夫とみつあみが山登りデート。例のごとくチビ猫が勝手についてきていたというお話です。そして、あろうことか山の中で迷子になってしまいます。
時夫の彼女、みつあみが再登場します。
木々に覆われた風景を、チビ猫が「葉かげや草かげに猫用のドアがいくつもひそんでいるように思えました」と表現するところが好きです。猫を飼っているとこの感じはよくわかります。
そして、まだ見ぬヤマネコを探して猫用ドアの向こうへ行ってしまうチビ猫……山の中でチビ猫がいなくなり時夫とみつあみは大慌てします。これは猫飼いとしては恐怖です。
散々探し回り、動かない方が猫が戻ってくるのではという結論に達し、二人は座って待つことにします。ひょうひょうとしているみつあみに対し、もしヤマイヌが出てきたら、いかにみつあみを守るか、いかに戦うかを緊張しながら考える時夫がイイです。自分も都会っ子でおそらくそういう事態には慣れていないけど、好きな子を守ろうと考える気概が伝わってきます。
一晩待っても結局、チビ猫は戻ってこず、翌日に二人はいったん家に帰ることにします。チビ猫が匂いでわかるように山には時夫のマフラーを置いていました。もしかしたらそこで眠っていてくれるかもしれません。
が、チビ猫は、その日の夜に自力で家まで帰ってきたのでした。時夫はみつあみにすぐに報告します。
二人の初々しい恋愛の様子、無関心なふりして興味津々なお父さんの姿、淡くて即物的ではなくていいなと思いました。
また、「おれの息子にしちゃオクテなヤローだわい」というお父さんの独白が、若かりし頃海の話で真っ赤になってデートしていたエピソードの後だと面白いです。
『ド・シー』
※ネタばれ含む
子供がやりがちなこと、その結果の心理状態がリアルに描かれていて、最後までチビ猫の気持ちで緊迫しながら読みました。
『猫草』に続きなかなか精神をやられる物語でした。
近所の猫が子供を産むところから物語は始まります。チビ猫はかわいらしい子猫がほしくなってしまって、「お母さんがもう一匹猫を飼いたがってる」と嘘をついて、もらって帰ってしまいます。
しかし、目を離しているすきに、その子猫はやってきたお母さんの友達にもらわれていってしまうのです。
お母さんにぴったりと引っ付いて、友達の情報を話さないか様子をうかがうチビ猫。このぴったりと足に引っ付いている様子がとてもかわいいです。チビ猫は見た目は人間ですが動作がしっかり猫なところが猫好きの心をくすぐります。まさしく猫耳萌えです。
いくら待ってもお母さんは友達の行方を言いません。
自分を信じて大切な子供をくれたのに……。しかも母猫はときどき様子を見に来るといっていたのに。募る焦燥感。
「聞いたかよ 須和野んちのチビ猫は子猫をまた貸ししてあそぶんだとよ」
「ブチ猫のおかあさんはないてるよ」
「そりゃあタブーだよタブー 猫ならばそういう事はしてはいかん ぜったいにいかん」
猫たちに自分が噂される妄想にとりつかれます。
どんな言い訳を考えてもうまくいかず、チビ猫は自責の念に堪えられなくなります。
そして、母猫のところへ行って正直にすべてを話しました。お母さんが子猫をほしがっていたのはうそなこと、自分で子猫を育てようとしたこと、子猫はお母さんの友達が連れて行ってしまったこと。
泣きじゃくるチビ猫に、母親は優しく語り掛けます。
「子猫をもってった人 やさしそうな人だった?」(母猫)
「うんっ」(チビ猫)
「それならいいのよ やさしい人ならいいの どこかにもらわれていっても」(母猫)
そして、その夜は子猫たちと一緒に母猫のところに泊まらせてもらうのでした。
「おばさんはいつまでもねないで 子猫をなめていたけど わたしはいつのまにか眠ってしまった」
最後はこの一文で締められています。
チビ猫がお母さんになれるのはまだまだ先だということですね。
そして、チビ猫は実はお母さんの友達を見ていないという事実。「うんっ」じゃないよ! これだから子供は恐ろしいよ! 反省していても平気でうそをつく!!
『ペーパーサンド』
※ネタばれ含む
チビ猫は飼い猫になることを望んでいる年老いたホームレスキャットから、「ペーパーサンド」についての話を聞きます。ペーパーサンドとは、猫飼いなら誰もが知っているであろう、猫トイレの砂のことです。ホームレスキャットのいうペーパーサンドは「白砂青砂のペーパーサンド」ということ。
私が子供のころは、確かに市販のトイレ砂は、白いビーズ状のものに青いビーズが混ざったものでした。きれいだったので覚えています。最近の砂はもっと大きめでチップ状のを使っていますが。
宝石のようにきれいだというペーパーサンドを、チビ猫は見たいと思います(チビ猫のトイレは砂場からとってきた砂を箱に入れたもの)。
そして、ペットショップでペーパーサンドを購入したお客さんを追いかけることで、その家の猫「ホリー」と知り合います。ホリーはチビ猫と同い年くらいの女の子でした。
そしてホリーからペーパーサンドを分けてもらいます。
家を出たことのないというホリーですが、チビ猫と一緒に外へ出かけます。ホリーはペットショップにいたということですから、おそらく純血種なのでしょうね。
ホリーの家では、大人になるまでは家を出ないようにとしつけられていた様子。
ひとしきり夢中でチビ猫とホリーは遊びますが、飼い主が探しに来て、迷うことなく「帰る」というホリー。
キャラウェイのことがあったので、チビ猫は予想しており、あの時ほどの怒りは感じていない様子。それでも帰ると「あみ戸しめられちゃうのに」と、閉じ込められるとわかっていても帰る心境を理解しきってはいないみたいです。大人になったらまた遊ぼうと心の中で誓います。
もらったペーパーサンドをホームレスキャットにあげ、ホームレスキャットはそれを幸福の種のようにまいたのでした。
まったく拾ってもらえなくても悲壮感なく次の機会を待つホームレスキャットのタフネスがほろりときます。
あみ戸をしめられるとわかっていても家に帰るホリーにも。
ほしくてたまらなかったペーパーサンドをホームレスキャットにあげるチビ猫にも。
みんな幸福になれるといいですね。
↓他の話の感想↓(◎お気に入り)
(単行本の一巻を持っていないので『ピップ・パップ・ギー』以降の話となります) 『綿の国星』 ◎
『ピップ・パップ・ギー』『日曜日にリンス』 『苺苺苺苺バイバイマイマイ』◎
『八十八夜』『葡萄夜』
『毛糸弦』◎
『夜は瞬膜の此方』『猫草』
『かいかい』『ド・シー』『ペーパーサンド』
『チャーコールグレー』◎ 『晴れたら金の鈴』
『お月様の糞』◎
『ばら科』
『ギャザー』◎
『ねのくに』
『椿の木の下で』◎
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