『苺苺苺苺バイバイマイマイ』
※ネタばれ含む
お昼ご飯を忘れられていたチビ猫は、魚屋に行って前回レクチャーしてもらった方法で魚をとろうとします。が、すきをつこうにも店主にすきはありません。
諦めて森で遊んでいたところ、これまた前回の泥棒猫に出会います。泥棒猫はチビ猫に張り付いて様子をうかがっているようでした。チビ猫はそれが不快でなりません。
おなかのへったチビ猫は、再び魚とりにチャレンジ。失敗。が、自分が失敗しているすきに泥棒猫が魚をとっていることに気が付きます。自分の後をついて回る泥棒猫にしびれを切らしたチビ猫があっちへ行くよう言います。が、のらりくらりとかわされてしまいます。
「あたしはあんたの先を歩きたくないのよ!!」(チビ猫)
「おい草 おれはあんたの上を歩きたくないんだ」(泥棒猫)
「…………」(チビ猫)
「そういったら草が消えるかよ あんたそんなにえらいのかよ」(泥棒猫)
「ご…めん」(チビ猫)
むちゃくちゃな理屈ですがちゃんと謝るチビ猫に泥棒猫も感心しました。が、先を歩くことはやめません。
相手を思い通りにしようとすることの傲慢さを教えられる台詞でした。また、素直に謝るチビ猫は素敵だと思います。
近所の猫の噂ではこの泥棒猫は流れ猫(流れ者)で、加工食品は一切食さず、魚屋の生の魚ばかり狙っているということでした。親猫が人間の仕掛けた毒入り団子を食べたのを見たのだろうと……だから加工食品を食べないのだろうと……。町中の魚屋にマークされるたびに、住まいを移して旅している様子です。
「あの子猫の後で魚をとれば魚屋の目は子猫の方にゆくし あいつは早々にこの美しい街を退ち去らなくってもいいってわけ」(野良A)
「しかもあの生命しらずの子猫は」(野良B)
「ああ あれは興味本位 あれは飼い猫だってさ きいたところによると」(野良A)
「飼い猫ォ」(野良B)
「だからすぐに気づくだろうよ 魚ドロボーなんてしなくていい幸福に」(野良A)
野良猫たちのシビアな現実が描かれています。決して楽しく猫の世界を描いただけのファンタジーではない、時には厳しい現実がつきつけられる、そういうところも綿の国星の魅力です。私はこの本から学んだことがたくさんあります。
チビ猫も家に帰れば泥棒猫と離れられることに気が付きます。屋内に入り、泥棒猫に勝ち誇った顔で手を振りますが、なぜか少し寂しげなチビ猫です。
その後もこりもせず魚とりにチャレンジするチビ猫なのですが、魚屋でパッと振り向き、泥棒猫に声をかけます「さかなはいっしょにとろうっ」。しかし、その声が原因で、泥棒猫は魚屋の投げた包丁に首を切られてしまうのです。
看病をするけれど元気にならない泥棒猫。チビ猫は「ごめん」と声をかけますが、返事はありません。「ごめんっていったらうんって言って」けれども返事はありません。何度ごめんと言っても泥棒猫は動きません。
そして夜が来ます。
血が止まっていることを確認し、チビ猫は家に帰ってコロッケを持ってきます。しかし、泥棒猫は加工食品は食べないのです。
チビ猫はほかの野良たちの制止を振り切り、シャッターを閉めんとしている魚屋へと走ります。
「なにすんだおいまさかあんた 今 魚とりにはいって あの閉店のシャッターの中にとじこめられたら 逃げ口はもう どこにも――」(野良A)
チビ猫は見事にシャッターをかいくぐり、魚をくわえて戻ってきます。
持ってきた魚を、泥棒猫はたいらげ、「うん」といいました。
昼間の「ごめん」の答えを今更――。
これもみごとにタイミングを無視した問答ではあるが、チビ猫のシャッターチャンスのタイミングは野良猫の語り草になるだろうということでした。最年少にして見事な技法であったと……。
その後、野良猫はいなくなり、野良猫の寝ていた草の上には、街の魚屋の数だけの魚がおいてあったということでした。
粋な計らいをして去っていくこの流れ猫が、私は好きです。
↓他の話の感想↓(◎お気に入り)
(単行本の一巻を持っていないので『ピップ・パップ・ギー』以降の話となります) 『綿の国星』 ◎
『ピップ・パップ・ギー』『日曜日にリンス』 『苺苺苺苺バイバイマイマイ』◎
『八十八夜』『葡萄夜』
『毛糸弦』◎
『夜は瞬膜の此方』『猫草』
『かいかい』『ド・シー』『ペーパーサンド』
『チャーコールグレー』◎ 『晴れたら金の鈴』
『お月様の糞』◎
『ばら科』
『ギャザー』◎
『ねのくに』
『椿の木の下で』◎
(クロックロの書斎LINEスタンプ)
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