『チャーコールグレー』
※ネタばれ含む
真冬の夜、独り暮らしの男の家に、チャーコールグレーの野良猫がやってくるというお話。
前に読んだ時から、なんだか印象に残っていた話でした。人間、しかも大人の男子目線の話ということで、雰囲気が他のと違ったからかもしれません。
「この世にいてもいなくても同じ」くらいにしか猫に興味がなかった男の家のベランダに現れた一匹の猫。窓から中に入り、そのまま眠ってしまう。
その後、猫はちょこちょこと男の部屋に訪れるように。いつしか男も猫が来るのが当たり前になっていました。
男は、自分の横で眠る猫に、去って行ったかつての恋人を重ねるようになります。
しかし、ある日、男は見てしまったのです。その猫がよその家も訪れて、可愛い鳴き声で媚びを売りご飯をもらっているところを。男はショックを受けます。自分だけの猫だと思っていたら、他の人間にもなついていた、しかも、自分には決して出さないような声を出して甘えていた……ちょっと悔しいのはよくわかります(笑)。まして恋人に重ねていたわけで。
「なんてことないっ それだけの猫だったんだ」
男は腹立ちまぎれに、その日は窓のカギを閉めて寝ました。その夜も猫は訪ねてきた……けれど、窓は開けませんでした。
そしてその日以来、猫は二度と訪れませんでした。
男は猫を待ち続けていました。いや、猫を待つつもりで、いなくなった彼女のことを待っていたのでした。
やがて男の心境は変わります。
「どこか気に入ったところがあって充分に生活していればいいんです 猫についても彼女についても」
この心境はとてもよくわかります。我が家でも飼っていていなくなってしまった猫はいます。いつか戻ってきてくれたらうれしいけれど、そうじゃなくても、気に入った場所で幸せに生活していてくれたらいいなと思います。たといそこがうちじゃなくっても。
我が家の庭に流れてきては去って行った野良猫たちも、みんなどこかで充分に生活していればいいなと思います。
恋人にも同じことを思えるようになったのは、主人公の器が大きく成長したことをうかがわせます。
そして、猫のことも彼女のことも穏やかに気持ちを整理しようとしていたころ……彼女が帰ってきます。
他に好きな人ができたといって去って行った彼女。主人公は戻ってきた彼女を優しく受け入れます。きっとあの猫に遭っていなければそういう心境にはなれなかったでしょう。
猫との出会いが主人公の男を成長させてくれたのでした。
いい話ではあるけれど、この彼女はかなり自分勝手だよな〜と思います(笑)。
『晴れたら金の鈴』
※ネタばれ含む
小説家をしている須和野お父さんのところに、小説家志望の女の子が弟子になりたいと現れるお話。
須和野お母さんが料理本の執筆をしていて、その間はお父さんがお母さんの代わりに家事をしています。その姿をたまたま見た女の子・千歳が見て、家事バイトとして須和野家で働きながら、小説家として勉強することになります。千歳は須和野お父さんの小説の大ファンだったのです。
しかし、千歳はまったく家事ができず、余計に家が散らかる始末……それでもお金はきっちりいただくという、いかにも現代的な女の子です。このころにはまだ「ゆとり世代」というものはありませんでしたが、今風に見れば「ザ・ゆとり」といった感じです。
夢探しをしてふわふわしている様子が、自分が若い頃もそんな感じだったなと懐かしくなるお話です。
なんだかんだで家に住み込み始めるというがめつい女の子ですが、実家で飼っていた猫「ウソ」にチビ猫を重ね合わせ、「私が大成したら金の鈴を買ってあげる」と約束してくれます。
ちゃっかりしているけど憎めない千歳のことを須和野家のみんなは受け入れていて、本当に気のよい家族だと思います。元気のよい猫がいて、のんびりしたお母さんがいて、ひょうひょうとしたお父さんがいて、まじめな息子がいて。須和野家は理想的な家族の形態かもしれません。
千歳は、お父さんに「二代目須和野飛夫(お父さんの名)」になるための小説技法を聞きますが、そんなものは必要ないとお父さんは答えます。
「君は君の一代目になればそれでいい」
この言葉に千歳は泣くほど感動していましたが、その気持ちは創作活動をしている人間としてはよくわかります。私も私の一代目になりたいと思いました、この言葉を見て。
泣きじゃくって仕事にならない千歳の代わりにお母さんがお昼ご飯を作ります。それを食べながら「どうしてこんなにおいしく作れるのか」とまた泣く千歳。
その様子を見ていたお母さんは、ある決心をします。
そして、その日のうちに原稿を終わらせてしまうのでした。原稿が終わったのを知り、家事バイトはもう必要ないということで、千歳は帰っていきました。
それを知り、お母さんはがっかりします。お母さんは、残りのバイト期間で、千歳に家事を教え込もうと思っていたのです。
私は、最初読んだとき、お母さんはあまりにも千歳が家事ができないから、このままではいけないから早く自分が復帰するために原稿を無理して終わらせたのだと思っていました。実際はまったく別で、千歳のために原稿を早く終わらせたのでした。そのやさしさにまたほろりときます。
去って行った千歳に対してお父さんはこう思います。
「けっきょく彼女は天才的なサギのタマゴだったのか それともただの夢追い娘だったのか どちらにしてもわたしは たいへん君を好きだったね」
憎めないところのある千歳のことをお父さんもお母さんも時夫もチビ猫もみんな気に入っていたのでした。
須和野家の人たちは本当にあたたかく、懐が広いと思いました。また、千歳自身にも、人に好かれる才能があったということなのでしょう。
こういう素敵な人たちに出会うことで、ただの夢追い娘が大きく成長していけたらと、願わずにはいられません。人との出会いに希望を感じさせてくれる内容のお話でした。
↓他の話の感想↓(◎お気に入り)
(単行本の一巻を持っていないので『ピップ・パップ・ギー』以降の話となります) 『綿の国星』 ◎
『ピップ・パップ・ギー』『日曜日にリンス』 『苺苺苺苺バイバイマイマイ』◎
『八十八夜』『葡萄夜』
『毛糸弦』◎
『夜は瞬膜の此方』『猫草』
『かいかい』『ド・シー』『ペーパーサンド』
『チャーコールグレー』◎ 『晴れたら金の鈴』
『お月様の糞』◎
『ばら科』
『ギャザー』◎
『ねのくに』
『椿の木の下で』◎
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