『ばら科』
※ネタばれ含む
子供を食べてしまうお母さん猫の話が出てきます。猫はストレスに弱く、ストレスを感じると自分の子供を食べてしまうことがあるのです。
この猫の母親の愛情、その情念ともいうべき強さが伝わってくるお話です。
チビ猫は自分にそっくりな野良猫のシャンと立場を取り替えっこします。シャンのお母さん・ドラムとシャンの姉妹たちと、野良猫として生きていくための訓練をします。
また、ドラムにはもう一匹いなくなってしまった子供がいて、チビ猫はもしかしたらそれが自分ではないかと考えます。
チビ猫はドラムや姉妹と過ごし、猫の母親から受ける愛情を初めて感じました。
しかし、自分たちが寝た後、ドラムがいなくなったことに気が付きます。外には知らない雄猫がいました。それはドラムの夫で、ドラムはシャンを探しに行ったのだと教えてもらいました。チビ猫がシャンではないことに最初から気が付いていたのです。
この夫とドラムの関係が、人間社会の離婚した夫婦みたいな感じなのが面白いです。猫なのに。
そして、いなくなった子供は車にひかれて死んだ事実を聞かされます。つまりチビ猫はドラムのいなくなった娘でもなかったのです。しかし、ドラムはチビ猫がその子供だと思い込んでいるのだと父猫はいいました。ドラムも死んだところを見たのに。
父猫は、ドラムは気が狂っているから、死んだ子猫がチビ猫だと思い込んでいるのだといいます。
私は。思い込んでいるというより、思い込みたいんじゃないかなと思いました。
ドラムは、車にひかれるくらいならその前に自分が食べておけばよかったと言ったそうです。
誰かに奪われるくらいなら自分が奪ってしまった方がよかった。
歪んでいるけれど物悲しいほど必死な母の愛だと思いました。
戻ってきたドラムに本当のことを打ち明けるチビ猫ですが、それでも家には帰してくれません。家に帰すくらいなら自分が食べるといいます。
一方、チビ猫の家に行ったシャンですが、お母さんやお父さんに威嚇をしてしまいます。この時威嚇するシャンの姿がとてもかわいいです。お父さんもお母さんもチビ猫だと思っているので、びっくりしています。
シャンはご飯を食べながら思います。
「うはー天国天国 ヒステリーのドラムもいない えものを分けっこしなきゃならないチンとトンもいない(姉妹猫の名前) もうあたしは一生 須和野チビ猫だあ」
シャンの居場所について口を割らないチビ猫に対し、ドラムはそれなら再びお前たちが寝ている間に探しに出かけるといいます。チビ猫はそれならドラムはいつ眠るのかと聞くと、ドラムはこう答えるのです。
「あたしはね もう眠らないんだよ」
狂っているといえばそれまでなのかもしれない、けれどそれだけで済まされないドラムの感情が伝わってきて胸にぐっときました。
そして、林で訓練していたところ、シャンが戻ってきます。須和野家での生活はやはり退屈だったとのことでした。
チビ猫とシャンは入れ替わり、ドラムがシャンに気をとられているうちにチビ猫は一目散に逃げました。
再び、ドラムは二匹が入れ替わったことに一瞬で気が付きました。
ものすごい形相で追いかけてくるドラム。食べられることを覚悟するチビ猫。
「ドラムッ そいつはおまえのものじゃないっ」という叫び。おそらく父猫のでしょう。
ドラムはチビ猫を食べずに引き返していきました。
子供を自分と同化させてしまう母親と、子供は子供自身なのだという現実。ドラムは現実にやっと気が付いたのかもしれません。
家に帰ると、ご飯は半分ほど残っていました。姉妹の分のご飯をシャンは食べずに残していたのでした。
ドラムはチビ猫とシャンの入れ替わりにすぐに気が付いたけれど、人間のお母さんとお父さんは気が付かなかった。
必死で一人で産み育てている母親の子供への気持ちは、それだけ強いのだなと感じるお話でした。それこそ、食べてしまいたいほどに。
↓他の話の感想↓(◎お気に入り)
(単行本の一巻を持っていないので『ピップ・パップ・ギー』以降の話となります) 『綿の国星』 ◎
『ピップ・パップ・ギー』『日曜日にリンス』 『苺苺苺苺バイバイマイマイ』◎
『八十八夜』『葡萄夜』
『毛糸弦』◎
『夜は瞬膜の此方』『猫草』
『かいかい』『ド・シー』『ペーパーサンド』
『チャーコールグレー』◎ 『晴れたら金の鈴』
『お月様の糞』◎
『ばら科』
『ギャザー』◎
『ねのくに』
『椿の木の下で』◎
(クロックロの書斎LINEスタンプ)
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