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『六三四の剣』〜「インターハイ・最終回まで」編〜
1981年発表(日本)
著作、村上もとか
六三四
※イメージ画

 ※ネタばれ含む



 六三四(むさし)という少年が剣道を極める王道スポ根漫画。
 岩手の虎・夏木栄一郎と、東北の鬼ユリ・佳代という剣道夫婦の間に生まれた六三四が、剣道家として成長していく過程を描いた大河漫画。


 

 高校最後のインターハイに向けて、日本各地でライバルたちが気合を入れています。いよいよクライマックスです。
 鹿児島の日高の脳筋っぷりがヤバい。チェストがヤバい。
 奈良の修羅は父親の希望で韮山先生の孫と勝負。父の行動にいつも「どういうことやろか?」と驚く修羅の苦労人っぷりが面白いです。
 そして熊本の孤島から舟をこぎだす乾――彼だけ時代劇の世界のようです。

 日高→修羅→乾→日高、でライバルたちの登場は終わり――って、う、有働の描写がないやんけ! 最初は日高と並んで出てきたのに、なしてこんな扱いになってしもうたんや(`;ω;´)

 そして、ついにインターハイ。男子個人戦の日です。
 六三四VS乾。この回のタイトルが「乾の怨念」。怨念って……。
 乾、小刀で小手を連打・連打・連打! のシーンが何か面白かったです。有効にならないのに叩き続ける――こんなの許されるんか?(笑)
「けええ!」と言いながら小手を滅多打ちにする姿がシュールです。

 戦いのさなか、乾は古沢兵衛のところに行った日のことを思い出します。弟子はとらないと拒絶され、コテンパンにやられてしまいます。

「けけけけーっ!」
「ぎゃあああ!」

 演出怖すぎる。
 気絶する乾。目覚めた彼に古沢は静かに語り掛けます。「一刀をまともに使えぬ体で二刀が使えるわけがあるまいが」と。悔し泣きする乾。

「うっ! うう〜〜〜っ!」

 可哀想。国彦に並んで、泣くタイプに見えないのに泣くシーンが多い男、乾。
 自殺しようとしたところ、古沢に止められます。古沢は弟子として受け入れてくれました。
 古沢のじいさんは狂人じみた描写がされますが、乾が死のうとするタイミングで二度も救いの手を差し伸べてくれます。
 本当は優しい老人なのかなと思います。乾に生きる道を与えることで、自分の過去の殺生の償いをしたかったのかもしれません。
 それにしても自分の命を(無意識に)盾に取ろうとする乾はつくづく病んでおりますな。

 六三四と互角にやりあうのに驚くみんなの描写で、乾さんの努力が報われた感じがして嬉しかったです。

 最初は六三四を応援していたもなみですが、試合が進むにつれて、その気持ちはだんだんと乾に傾いていきます。そのときの様子が鬼気迫るものがありこちらの気持ちも揺さぶられます。

「わ…わたしは知っているわ…あなたが…だれよりも苦痛に耐えながら、ここまではいあがってきたことを!」

 ここにきて手紙攻撃がじわじわと効いてきたようです。

 乾が古沢兵衛の得意とする構えをしたときに、怯えだす有働が面白かったです。トラウマになっとるんやな、気の毒に……。

 接戦の末、勝利したのは六三四でした。
 六三四と言葉をかわすもなみちゃん。六三四の気持ちが自分にないこと、そして自分の気持ちが乾に向いていることを実感します。「乾のところに行ってやれやあ」と微笑む六三四。去っていくときのもなみちゃんの、

「わたしいくわ…さよなら!」

 が、幼稚園からの二人の淡い関係に終わりを告げていて、しんみりします。「さよなら」が象徴的です。(六三四にフラれてから来たとか知ったら、また乾さんが荒れそうだなあ)

 乾が、自分自身への気持ちよりも、古沢先生への気持ちでの悔しさで泣くところがグッときます。ひねくれ者の乾が成長したな、と。
 乾は負けてしまいましたが、もなみちゃんに声をかけてもらうことで救われました。ここのシーンは感動的です。

「剣道、続けてください」

 これ以上に欲しい言葉があっただろうか。

 何とか勝った六三四ですが、乾の「突き」が首をかすったことによって出血を伴う大けがをすることになりました。夏木栄一郎と東堂国彦の試合を彷彿とさせる不吉さです。
 六三四がトイレで傷を確認するシーンの、
1ページ丸ごと使って描かれた、血をどくどくと流す六三四の画は衝撃的です。
 まるで死んだ栄一郎の時のようで恐ろしいです。

 六三四VS日高。
 日高の売りは誰にも負けない素早さにあります。示現流の、あえて隙の多い構えをするところが熱いです。
 日高の戦い方は潔さがあって好感が持てます。
 途中、新品の竹刀を日高の攻撃がへし折るところは緊迫感があります。彼の打ち込みの激しさに読んでいる側がドキドキします。
 途中、日高が桜島の噴火で飛んでくる岩を砕いている絵が入るのですが、これがイメージ映像なのか実際にやったことなのか気になります。やっていそうで怖い。
 お互いに地団太を踏んで気合を入れ合うシーンが熱いと同時にちょっと笑えます。
 日高もなかなかに強烈なキャラクターです。
 試合のさなか、ぶつかり合って倒れる二人。床にしたたる血で、日高は六三四の首の怪我に気が付きます。

「夏木…ワイ(お前)…!?」
「勝負だ、日高!」
「……よか! ワイ(お前)の根性にホレたど!」

 日高といい、その前にあたった選手といい、みんな六三四がけがをしているのに気づきながら、彼の闘志を尊重して、あえて止めない。戦いを続行する。熱血です。

 そして、高校日本一の決勝戦が始まります。
 二代目岩手の虎・夏木六三四VS奈良の天才児・東堂修羅
 修羅の大会三連覇か、六三四の初出場優勝か。歴史的一戦の開幕です。
 修羅、足さばきで分身の術を使いしょっぱなから飛ばしてきます。君は本当に現代漫画の高校生なのか(笑)。ここのシーンは優美で記憶に残っています。
 そして、東堂家の必殺「突き」を繰り出してきます。

「もう、突くのやめてけろ。それ以上、六三四の怪我さひどくなったら……」

 という、嵐子のヒヤヒヤ具合にすごく感情移入します。
 竹刀の血の汚れで、六三四の怪我に気づく修羅。しかし、

「キミののどが傷ついているのなら、ボクがそのノドを突き破る!!」
「僕は阿修羅や!!」


 と恐ろしい決意を独白します
 _人人人人人人人人人人人_ 
 _>    僕は阿修羅や!!   <_ 
    Y^Y^Y^Y^Y^Y^YY^Y ^Y^Y

 さすがは東堂国彦の息子、容赦がない……っ。
 修羅は普段は温厚ですが、いざ試合となると名前の通り「修羅」と化しますね。それもあのはんなりした関西弁と穏やかな表情のまま、背後に阿修羅像を召喚するんだから並みのホラーより怖いです。

 それにしても修羅、自分の父親が六三四の父を「突き」で殺しているのに、六三四が首にけがをしているの知っていながら突きまくるという鬼畜具合。

「たいしたやつやで東堂も。夏木の首のけがを知ってて突きまくりやがった!」

 さすがの乾さんもちょっと引くレベル。ちなみに、ここのシーンは乾さんの目に注目です。なんとハイライトが入っています! 真っ暗な瞳に光が戻ったのです。愛ってすごいですね。
 というか、何、さりげなくもなみちゃんと仲よく並んで観戦しているんだよ(笑)。

『六三四の剣』は幼少時代にあった出来事を、高校生になってからも似たシチュエーションで繰り返すという演出がよくされます。
 最後の全国大会も、六三四は負傷を隠しながら戦うというところが夏木の死んだ試合を想起させます。しかし、六三四は死にません。無事に日常へ帰ります。そこにこの物語の希望があります。

 試合後、六三四は真っ先に嵐子のところに向かいます。そして自分の竹刀を渡します。

「どこへもいぐでね! お…俺の…そばに…」

 嵐子に倒れこむようにして、気を失う六三四。
 今まで嵐子に恋愛を意識した発言が六三四から出たことはありませんでした。だから最後のこの、プロポーズのような言葉がより際立ち感動的でした。
 もなみと乾といい、六三四と嵐子といい、ほのかな進展をにおわせるところまでで終わるところが、野暮じゃなくていいです。

 一方の修羅は、父・国彦の危篤で奈良へと帰ります。
 その道中で、空に国彦と母・朝香が寄り添う姿を見るのでした。

「さいなら父さん…さいならや!」

 父に複雑な感情を持ち続けた修羅が、泣きながら微笑んで空を見つめる姿は胸に来ます。
「鬼」と呼ばれる国彦がやっと安らかに微笑む姿を見せた、とても印象に残っているシーンです。

 その後、修羅と六三四はお互いの進路について手紙で報告し合って、物語は完結します。
 余韻を残す終わり方が素敵です。

 剣道が人生の中心と言わんばかりの、「剣道バカ」たちの話でありながら、最後には学生らしく将来の進路の話で終わるところが少年漫画らしくてよいなと思いました。
 何だかホッとします。

〜総括〜 
 剣道だけではなく、「人生」や「生き方」について考えさせられるとても重厚な漫画です。
 定期的に読み返したくなる不思議なパワーを持っています。
 古い作品なので時代を感じる部分も多いですが、剣道漫画の金字塔として自信を持ってお勧めしたい一作です。
『六三四の剣』は絵の迫力がとにかくすごい漫画です。また、私の感想で書いているのはごく一部です。ぜひ! 漫画を手に取って読んでいただきたいです。

 余談ですが、この漫画のおかげで剣道の「突き」にすっかりと恐ろしいイメージがついてしまいました(笑)。
 実際は、剣道の防具の安全性は非常に高く、突きでけがをしたり死ぬということはほとんどないようですが。


 



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 「修羅の剣」編へ  
 「見どころとキャラクター」編へ 
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 「剣を捨てる、そして」編へ 
 「高校一年・武者や乾の登場」編へ 
 「高校二年・母の闘い」編へ 
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