『六三四の剣』〜「高校二年・母の闘い」編〜
1981年発表(日本)
著作、村上もとか
※イメージ画
※ネタばれ含む
六三四(むさし)という少年が剣道を極める王道スポ根漫画。
岩手の虎・夏木栄一郎と、東北の鬼ユリ・佳代という剣道夫婦の間に生まれた六三四が、剣道家として成長していく過程を描いた大河漫画。
〜修羅の修羅場〜
時は流れ、高2のインターハイ。修羅がインターハイ3位(秋田代表)に言う言葉が少年漫画っぽくていいなと思いました。
「六三四君に会うことがあったら伝えてください」
「誓い通り……東堂は夏木がでてくるまで勝ち続けると!」
梅木は山籠もりして修行する六三四に出会います。その後、修羅に送った手紙。
「岩手に虎あり」
このたった一言にすべてが込められていますね。
一方でその修羅は、母にそっくりな女性(麻里さん)とボートデートなんて楽しんじゃってます。
まだ17歳の修羅には、彼女を幸福にする力がありません。
いろいろあって、二人は駆け落ち(!)を誓います。あのお坊ちゃんの修羅がなんと大胆な……と、ある意味とても成長を感じる展開です。
優等生の反抗期は極端に走るから油断できません。
しかし、家に帰るとそこには東堂国彦が。いきなり稽古を申し込まれます。時計を気にしつつも、父の申し出を受ける修羅。やっぱりお坊ちゃんです。
防具なしでしかも木刀を使っての稽古(勝負)を提案してくる国彦に修羅も読者もドン引きします。ほとんど殺し合いの提案です。
このお父さんもやっぱりちょっとおかしいです。外で仕事をしている様子もないし、剣道ばかりやって生きてきた、常人の理解を超えた人なのでしょう。
そして、勝負の中で修羅の中に「阿修羅」が宿り、殺し合いにノッてくるのにさらにドン引き。おなごわらしみたいな顔してやっぱり修羅も国彦はんの子やった……。「あなたは鬼や!」
死闘の末。
「わたしはもうお前の親ではない……我が子をこんな目に遭わせる親などこの世に存在してはならんのだ……」
「お前は死にはせん……あばらの3〜4本折れただけだろう。思うが通り……生きるがいい」
とても現代日本を舞台にした漫画のセリフだとは思えません。
そんなこんなで駆け落ちどころではなくなってしまうのでした。
来ない修羅をあきらめ、「いいの、もう、いいの……」と麻里さんが泣きながら微笑むシーンが印象的です。
これ、もしどちらかが本当に死んでいたら、剣道界に激震の走る大スキャンダルですよ。両方助かってよかったです。
国彦は体を癌に侵されていました。死を悟り、後に残る息子が気がかりで一度剣を交えてみたくなったのだそうです。いやその発想はおかしい。
〜復活の乾〜
そして、二年生になった六三四は、剣道部へ復帰します。
久しぶりに稽古をつけるために、嵐子と武道館へ出向きます。この時に、もなみちゃんも同行します。
嵐子はもなみちゃんから、乾の手紙についての相談を受けます。そして、今、盛岡に帰ってきているから会いたいと電話が。誘いは断ったものの、もなみちゃんは怯えています。そりゃそうだ。いきなり襲ってきたうえ、その次は手紙攻撃とか。不良(ワル)からストーカーに変質したで!
もなみが自ら住所や電話番号を教えるとは思えないので、乾は自分で調べたんだろうなあ、本当にストーカー気質だなあ。
しかしこの時、ストーカーは間近まで迫っていた――そう、武道館内に乾はいた!
『六三四の剣』ワイド版9巻
何なんですかこの図は。
これもはやホラー漫画ですよ。
何でこんな、一人離れて防具付けて座っているんだよ。罰ゲームかよ(`;ω;´)
どうやら乾さんは本気で彼女を好きになってしまったご様子。六三四の真剣さは伝わらなくても、もなみちゃんの真剣さはあの事件の時に伝わったのかもしれません。
この後、六三四の寮で、武者先輩と六三四が会話するシーンが入るのですが、ほのぼのしていていいです。
武者先輩は落第生で女好きでちゃらんぽらんしているように見えてしっかり将来のことを考えていて、尊敬できる先輩です。
高校に入った時には武者先輩はめっちゃ強そうでしたが、実際に剣道で活躍する場面がそんなに多くなかったのが物足りない点でした。
六三四が武者修行に出て部活をやめるという展開上しかたがないといえばないのですが……。
〜剣士としての母〜
母に再婚の話が持ち上がります。
六三四は、再婚の前に「かっちゃがもう一度全力で剣を持って戦う姿を見たい」という無茶ぶりをします。こ、これがバトルマニア……。剣士としての復帰を承諾する母。目指すは日本一。
六三四と嵐子が部活帰り、雪の中を歩くシーンがあります。いつの間にか歩幅も変わり、六三四に追いつけなくなった嵐子。どんどん遠くなっていく……そんな切なさのあるシーンです。『六三四の剣』内でもすごく青春っぽい場面だなと思いました。
六三四が三年になった5月。
母・佳代は全日本大会についに勝ち進みました。上下白の道着に加え、防具も白といういでたちは美しいです。
大会には武者修行で世話になった風戸も出場しています。二人は準決勝でかち合うこととなりました。 「素敵な女性だわ。あなた彼女のこと好きなんじゃない?」という母が鋭いです(笑)。
母と風戸さんの試合は『六三四の剣』の中でも名勝負だと思います。
激しい試合のさなか、栄一郎のことを思い出す佳代。
「栄一郎さん……私の心の中に住む大好きだった人!」
佳代が栄一郎への思いを手放し、前へ進もうとする姿は胸に響きます。
大会後、佳代がにっこりと笑って風戸に言う台詞が印象的でした。
「ありがとう、風戸さん。だけど……18年ぶりにここへ出させていただいて私が改めて思ったことは…生きてゆくことはどんな試合よりも厳しい戦いだということでした…」
これほどの剣士でもそう言うなら、自分も頑張って戦っていこう、生きて行こうと思える台詞でした。母・佳代の包容力を感じさせるエピソードです。懸命に生きてきた人の言う言葉だからこそ重みがあります。そして、微笑んで言うところに、「大丈夫」と言ってもらえたような安心感があります。
修羅の恋、乾ともなみ、嵐子と六三四、母の再婚と、人間関係がドラマティックに動くことが多いのが、高校二年生のエピソードです。
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■総合目次■
「乾俊一について熱く語る」編へ
「修羅の剣」編へ
「見どころとキャラクター」編へ
「子供時代・試練まで」編へ
「剣を捨てる、そして」編へ
「高校一年・武者や乾の登場」編へ
「高校三年・インターハイ前の青春」へ
「インターハイ・最終回まで」編へ
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