『六三四の剣』〜「見どころとキャラクター」編〜
1981年発表(日本)
著作、村上もとか
※ネタばれ含む
六三四(むさし)という少年が剣道を極める王道スポ根漫画。
岩手の虎・夏木栄一郎と、東北の鬼ユリ・佳代という剣道夫婦の間に生まれた六三四が、剣道家として成長していく過程を描いた大河漫画。
スポーツやらないくせに子供のころから何度も読み返している、私の人格形成において避けては通れない作品です。
〜圧倒的リアリティ〜
この漫画のすごいところは、とにかくリアリティのあるところです。少年漫画でありながら、現実を超越したようなシーンはなく、現実にありそうな範囲で、迫力のある戦いを描いています。
また、絵が細かい。面の網の部分とか、その下から覗く顔とか、竹刀とか、かなりリアルに細かく絵が描かれていてすごいなと思います。その絵の厚みが、物語に奥行きを作っています。
〜キャラクターの魅力〜
とにかくキャラクターが魅力的です。
リアリティ重視で奇抜な髪形や格好もできず、人間離れした技も使えない中で、最大限にキャラ立てを行っています。
同じような防具で顔を隠してしまう試合中も、構え(六三四の上段の構えは真似したくなります)・道着の色・技・背景(六三四は不動明王・修羅は阿修羅・日高は桜島)などでわかりやすくしています。
≪東堂修羅(とうどうしゅら)≫
『六三四の剣』ワイド版1巻・7巻
特に、幼少期からの最大のライバル・修羅はこれでもか! ってくらいにキャラが立っています。
上下純白というキザな道着姿。女顔の修羅だからその姿が映える。
漫画内だと男性キャラでこの格好は、修羅の父と修羅しかいないので余計に際立っています。対する六三四の道着が上下黒なところもいい。
「突き」という必殺技の存在。
むちゃくちゃ強いのに性格は柔らかで見た目も穏やかというギャップ。
母の死と、父親が試合で親友(六三四)の父を死なせるという重たい過去。
永遠のライバルとして不足なしです。
修羅は奈良という遠方に住んでいるので、しょっちゅうは登場しません。だから、登場するたびに「修羅キターーーー!!」となります(笑)。
また、足さばきで自分の分身の幻影を見せるという、普通の人間とは思えない技を使います。ハンターハンターのキルアかよ! っていうか、キルアの分身を見て最初に思い出したのが修羅だった(笑)。るろうに剣心の蒼紫の流水の動きもまったく同じ原理なので、実際に元になった技があるのかなと思います。
「修羅の剣」の項目もどうぞ。
≪轟嵐子(とどろきらんこ)≫
『六三四の剣』ワイド版1巻・7巻
幼少期に六三四が出会う女剣士・嵐子も印象的なキャラクターです。
中性的な見た目で、最初は男か? と思わせておいて、実は女だという。そのうえ、六三四と互角に渡り合うほどに強い。このころの嵐子は修羅に並ぶ六三四のライバルでしたが、高校生になった後は女の子らしさが出てきて、ライバルよりもヒロインらしくなってきます。
子どものころは六三四と互角に渡り合っていた嵐子が、高校になるときにはすっかりかなわなくなるところは、男女の差とはいえ少し切ないです。
この漫画には剣道少女・嵐子と、幼馴染・もなみちゃんという二人のヒロインが登場するのですが、自分は嵐子が好きでした。
めっちゃ強いのに女の子としては不器用で六三四に素直になれないところとかが可愛いです。途中はもなみちゃんに押されていましたが最終的には六三四と引っ付くので安心しました。
高校生編でも、もう少し剣道家としても強くなってほしかったなあ。
≪乾俊一(いぬいしゅんいち)≫ 『六三四の剣』ワイド版7巻
そして忘れてはいけないのが、二刀流剣士の乾俊一。作中で私が一番好きなキャラクターです(というか漫画という媒体の中なら一番好きな男性キャラだ!)。
みんなそれなりに熱血で爽やかなのに、唯一暗くて陰険な異色の男。
ハイライトのない真っ暗な瞳。最大のライバル・修羅と同じ奈良の出身。
親に殺されかけるという壮絶な過去。
宮本武蔵と同じ二刀流を操るという設定。
さらにもなみとの関係……。
高校生編での、六三四の新たなるライバルとして満を持して登場させられた印象です。
いい子ちゃんの修羅では務まらない「敵」「悪役」を務めてくれました。
でも、嵐子を助けに来る初登場のシーンは無駄に格好いいです。あそこが彼が一番輝いていたんじゃないかと思います。嵐子のことを「その女」とかではなくて、「その女の子」と優しく表現するところもいいです。
ほかのシーンは常に陰気臭さをまとっています。
乾さんについては詳しくは別ページに語っています。
≪小宮もなみ(こみやもなみ)≫
『六三四の剣』ワイド版1巻・7巻
六三四の幼馴染もなみちゃん。
お淑やかな見た目に似合わず、幼稚園のころから六三四に積極的なアプローチをし続けた女の子。高校生になっても六三四のことが好きなわけで、すっごく一途です。しかし、六三四のほうは「幼馴染」以上の好意が一貫して存在しないようで、少し切なくなります。でも可愛いから六三四にこだわらなければ恋人はすぐに作れそうです。といか最終的にはストーカー男・乾といい感じになって終わるという(笑)。
乾さんのことを、本人以外の前では「乾くん」と呼び、本人の前だと「乾さん」と距離を置いた言い方をするところが細かくていいです。
乾さんがもなみちゃんを好きな理由もよくわかりませんが、もなみちゃんが乾さんを好きになるのもよくわかりません。
最初、強引に来たのにその後は三歩くらい下がって、「まずは文通から……」となったところがよかったか、手紙に稽古の様子や真剣な気持ちが書かれていて気持ちが動いたか、ふったはいいけど諦められると惜しくなったか……。乾さんの努力を手紙で知っていたから、それでも六三四に負けてしまったのを見て、いてもたってもいられなくなったのかなと思いますが。六三四にふられちゃったのもあるでしょうし。でもやっぱり、あの始まりから恋愛感情まで発展するのは不思議です(笑)。
「六三四の大事なもんは全部、俺が奪ったる!」とか言ってもなみに執着したのに、六三四自身はそうでもなく簡単に乾に譲っているから、何か、別角度から見るともなみちゃんが可哀想になってきますね。「自分では好意を受け止めきれないし、ちょうどいいから乾に押し付けたろ!」みたいな感じがしなくもない。
友達のいない六三四に一番最初に声をかけてくれた、剣道以外の彼の人格形成においてとても重要な役割を持ったキャラクターです。彼女がいたから、六三四は「強さ」だけではなく「優しさ」も身に着けることができたのかなと思います。
また、「ポム」というボールの擬音を出した偉大なキャラクターです。
〜掛け声〜
また、剣道の気合の掛け声も、キャラクターによってある程度決まっています。
六三四「うおおおお!」
修羅「いやあああ!」
大石「おりゃあああ!」
乾「どっせえええ!」
乾さんは六三四との最終バトルでは「しゃあああ!」「けえええ!」「ひょおおお!」と多様な掛け声を披露してくれます。
日高「ちぇすとおおお!」
示現流だと実際に「チェスト」と叫ぶようです。
武者「ひょおおおお!」
ひょおおお、って。ひょおおお。どっせええもなかなかだけど。
読み始めたら最後まで読みたくなり、また最後まで読んだら最初から読みたくなるという、恐ろしく中毒性のある漫画です。
熱血スポーツ根性な内容で、現実だと絶対にこんな世界はごめんですが(笑)、漫画の中だと胸が熱くなります。せめて精神面だけでも熱血になりたい、でもなれない、だから漫画を読んで満足する! そのくらいがちょうどええんや!!
次回は「子供時代・試練まで
」をお送りします。
■総合目次■
「乾俊一について熱く語る」編へ
「修羅の剣」編へ
「子供時代・試練まで」編へ
「剣を捨てる、そして」編へ
「高校一年・武者や乾の登場」編へ
「高校二年・母の闘い」編へ
「高校三年・インターハイ前の青春」編へ
「インターハイ・最終回まで」編へ
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