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『六三四の剣』〜「高校一年・武者や乾の登場」編〜
1981年発表(日本)
著作、村上もとか
武者潔和
※イメージ画

 ※ネタばれ含む



 六三四(むさし)という少年が剣道を極める王道スポ根漫画。
 岩手の虎・夏木栄一郎と、東北の鬼ユリ・佳代という剣道夫婦の間に生まれた六三四が、剣道家として成長していく過程を描いた大河漫画。


 

〜新たなるライバル〜
 時は一気に流れ、六三四、15歳になります。青春編(高校生編)の始まりです。
 盛岡の高校に入学した六三四。寮から久々に岩手山を見て、感激のあまり川に飛び込みます。  
 それを見ていた武者先輩が「じゃじゃあ!!」。このシーンは爆笑しました。(そういえば、「じぇじぇじぇ」じゃなくて「じゃじゃあ」なんだよな、この漫画だと)
 高校編から登場する武者先輩は好きなキャラクターです。落ちこぼれで落第しているので年上で、高校生とは思えない風体をしています。
 普段はひょうひょうとしていますが、いざというときに頼りになる格好いい先輩です。
 しかも剣道もむちゃくちゃ強い。普段は目が隠れているのですが、たまに鋭く眼光が光るところがいいです。
 ひょうきんな先輩として登場した武者先輩が、歓迎会で六三四に「突き」を決めて吹っ飛ばすシーンは衝撃です。 生ぬるい空気を一気に引き締めます。

 高校編は、部活のしごきだとか寮生活だとかが恐ろしくて、高等学校が怖くて仕方がありませんでした(笑)。幼い自分はいつか自分も高校に行かなければならないことに絶望したものです。同じように、幽遊白書を読んだときは中学校が怖くて仕方がありませんでした。

 剣道部入部式での道場では、武者先輩がまたいい味を出しています。

「へっへっへっ、あんた……防具つけててもめんこいな〜」
「武者!」


 へらへらした武者先輩をキッとにらむ嵐子。態度とは裏腹に、「マシンガン突き」なる恐ろしい技で、冷酷に嵐子を気絶するまで追い詰める武者。この狂気じみたキャラにしびれます。
 度胸試しの道場の演出は子供心に恐怖でした。

 その後、魚戸オサムや、大石、もなみちゃんとと再会します。オサムは高校では六三四の先輩なのに、二人の時には幼稚園のころのように「親分」と六三四を呼ぶところがグッドです。離れていても、今まで剣道を続けていたのだというところも感動します。

 六三四が幼少期に暮らしていた家をたずねに行くシーンは、自分が子供時代に暮らした借家のことを思い出したりしてしんみりしました。取り壊されるという設定が切ないです。とっちゃと自分を比べるシーンは、六三四の肉体的・精神的成長を感じることができます。

「大石! 大石でねが!」


 大石の再登場は胸が熱くなりましたね。 真っ暗な面の中に大石の顔が見えた瞬間、読んでいるこちらも「おおおお!」となりました。武者先輩をコテンパンにやっつけ「道場に鬼がいる」とまで言わせるところはさすがです。ガキ大将のころの威厳を保っています。

 また、高校編で、もなみちゃんと六三四が再会するところはぐっときます。
 もなみちゃんは最終的には別のキャラと引っ付くのですが、完読した後にまた一巻に戻って読むと、「ああこんな頃もあったな」と懐かしい甘酸っぱい気持ちになります。

 再会したもなみちゃんと六三四が神社で待ち合わせをしたときに、不良30人(!)に襲われるという事件が起こります。不良30人というのがまず狂っています。
 相手の卑怯な手にかかり、最終的に夏木と武者先輩二人で不良と喧嘩始めたところは「ああああ、だめだああああ、インターハイがああ!」と漫画ながら絶望してしまいました。
 武者先輩が、一言の言い訳もせず自ら退学を申し出て涙するシーンは超格好いいです。

 この事件に絡んで、颯爽と現れて嵐子を助ける乾さんの格好良さは異常。その後の偏執的なキャラクターが想像できん(笑)。あれか、カマトトぶっとたんか? 詳しくは『乾俊一編』にまとめてあります。
 元・不良の総番長で、落第生で、別の学校から流れてきて……武者先輩のバックグラウンドも気になるところです。

 六三四と乾の初対面のとき、、乾は森で木を切っていました。木刀で木をバシバシ叩いて削って……まじかよっ!! 日高よりすごくねーか!? 
 その後、場所を移して二人は試合するのですが、乾さんときたら試合中に足を狙ったり、試合に負けたら首を絞め始めたりとむちゃくちゃです。
 それでも六三四相手に善戦し、「こんなすごいやつが修羅の背後に隠れていたのけ!」とまで言わせます。高校からの新たなライバル誕生です。

 奈良からわざわざ訪ねてきた修羅が六三四に対・乾用のアイテムを渡したり戦術のアドバイスをします。「正直に言えば乾にだけは負けてほしくない」と。
 あの性格の良い修羅にここまでさせるとは、中学三年の全国大会で乾がどんな揺さぶりをかけて延長戦まで追い込んだのか気になります。やはり土下座させたのでしょうか。

「僕は中学の時ヤツを必死に叩き伏せひのき舞台を踏ませんかった。今度は君がそれをやる番や!」

 と、完全に悪役扱いです。

 新人戦当日は、チームメイトにまで「六三四……勝てよ! おれ、あいつは好かん」とまで言われています。乾さんカワイソス。そりゃあ性格歪みますわ。
 乾の試合の相手は、彼の目を見て恐怖して動きが鈍ります。底知れぬ死の匂いのする真っ黒な瞳。剣道の技以外の部分で強い、乾。
 試合前、乾は六三四に「俺に対する戦法を東堂からよく教えてもらったか?」と声をかけて動揺させます。

「なんや……裏でこそこそやりやがって。東堂もひきょうなやっちゃで!」

 六三四はこの言葉に怒りますが、事実だし乾の側からすると面白くないのもわかります。というか、何でそのこと知っているんだ? まさかこっそり二人を見はっていたのか? さすがストーカー男……。 六三四と修羅の戦歴も知っていたし、かなり下調べしていたんだろうなあ。
 乾さんの罵声の中に「剣道バカの世界」という文句がありましたが、まさに『六三四の剣』という漫画を象徴するような言葉で、ちょっと笑ってしまいました。六三四は激高して乾さんをぶん殴りますが。
 このシーン、乾さんの卑劣さを表すシーンなのですが……いきなり二発も殴ったうえ、壁際に追い込み頭ガンガンするなんて、六三四もかなりヤバいと思います。一発ならまだわかる。しかし二発。しかも血まみれの相手をさらに攻撃。相手が乾さんじゃなかったら大変なことになっていたぞ。
乾俊一『六三四の剣』ワイド版7巻
 六三四を土下座させて悦に浸る乾さん。ずっと壁に貼りついたままなのが面白いです。

 試合では、真っ暗な乾の目に、六三四ですら恐怖を覚えます。目をそらしてしまいたい――その目の恐怖は、子供の時に戦った東堂国彦の目への恐怖と同じでした。国彦はん……。
 乾が怖くて、六三四は勝負を焦った破れかぶれの猛撃に出ます。 結果は、二人はもつれあい転倒。乾は左腕を骨折の大けが、しかも元のようには戻らないという最悪の事態となってしまいました。この時の白目をむいてガクガク震える乾の演出がリアルで怖いです。
 血を流して倒れた乾を、のどから血を流す父とだぶらせる六三四。

「こんなはずじゃなかった!!」

 乾というキャラクターは修羅と並び、六三四のとっちゃの出来事をリフレインさせる役割を持っているのかなと思いました。 

〜武者修行へ〜
 スランプ克服のため武者修行に出る六三四に、母親が「一期一会」という言葉をプレゼントします。
「一期一会」――私にとっても印象的な言葉になりました。一つ一つの出会いを大切にしたいと、ことあるごとに思い出す言葉です。

 高校生編で、六三四は父親と同じように武者修行に出たり、父のことを思って素振り一万本をしたりと、幼少期のエピソードがしっかり絡んでくるところがいいなと思いました。

 父の母校の大学に乗り込んだとき登場する、女主将の風戸さんが格好いいです。
「おなごが相手!?」という六三四を、圧倒的な力で負かせるのです。

 そして九州へ――。
「悔しかったら鹿児島に勝負に来い」
 ついに日高との再会です。鹿児島の港で剣道着姿の人間が大勢集まって出迎えたシーンは笑いました。作者は九州人をなんやと思うとるんや。
 九州は剣道の熱い地域らしいのですが、それにしても描かれ方が狂気的です。狂気の最高峰・古沢兵衛先生もいるし。
 日高は新品の竹刀をへし折るほどの剛剣の持ち主です。殺し合いじゃあるまいに、剣道でそんなに力をつけてどうするつもりなのか……恐ろしすぎます。
 日高の家は豪邸で、広い庭があります。その庭に何本も建てられた立木を、子供からサラリーマンから年寄りまで叩いている光景は衝撃で、頭から離れなかったシーンの一つです。

 高校生になった日高は修羅とも乾とも対照的で、少年漫画のライバルらしい明朗快活な性格をしていて好感が持てます。小学生のころは小生意気なガキでしたが(笑)。
 まだ高校生なのに、示現流に対して大きな夢と目的を持っているところも偉いです。

 日高との勝負の日、降り積もる桜島の火山の灰を踏みながら、

「降ってる……これが火山の灰け……まるで……夕暮れのようだべ……」

 と言い、二人が対峙するシーンは情緒的で美しいです。

 そして六三四は、もう一人の九州の剣豪・有働が何者かに勝負を挑み、やられて入院したと知ります。

「怪物が……熊本にいる!!」

 有働さん、高校生編になって早々、ギブスをして病院で寝ているという哀れな姿……。「怪物」の強さを見せつけるために、必要だったのかもしれませんが、扱いの悪さに同情します。有働は犠牲になったのだ……二刀流の犠牲にな……。
 そう、有働を半殺しにしたのは、古沢兵衛という伝説の二刀流剣士でした。
 有働曰く「人間の剣じゃない。鬼だ。絶対に挑みに行くな」と。
 まあ六三四は挑みに行っちゃうんですけどね!!
 有働の妹(麻衣子)に古沢老人の暮らす孤島まで案内してもらいます。この妹、兄があんな目に遭ったにもかかわらず六三四をつれて行くなんて、なかなかの肝です。
 古沢兵衛は人間嫌いで、過去の罪から、自分は一人孤島で朽ち果てるべきだと考えています。それなのに犬を飼っているところが、なんだかんだで一人が寂しいのであろう感じが出ていてよいです。
 古沢兵衛は宮本武蔵の信奉者で、「むさし」という名前に縁を感じたようで特別に稽古場に入れてもらえました。
 岩穴(道場)の壁には、巨大な宮本武蔵の肖像画が描かれています。古沢兵衛が自分で描いたと。絵、うめえ。これは狂信者ですわ……。
 そして、六三四と古沢は勝負をします。これだけ異様な人なのに、勝負の時には防具をつけるところがしっかりしています。

 六三四を殺さんという勢いの古沢を、麻衣子が

「お小手! お面! おすね!」

 と上品な言い方で打ちすえて止めに入るのが面白いです。
 古沢の強さは「人を殺す気で竹刀を振る」ところにあります。しかし、六三四は「人に新しい命を吹き込む剣道をしたい」と誓うところがいいです。六三四の生き方には「救い」や「希望」を感じられます。 さすがは主人公です。

 その後、乾さんともなみが遭遇します。
 乾さんは普段はけっこう優しいしゃべり方をするところがいいなと思います。修羅や六三四が絡むと頭おかしくなりますが。
 ひと悶着あり、六三四の手紙を読まされる乾さん。二刀流に自分の活路を見出します。
 ここのシーンの乾さんの会話のかみ合ってなさがいつ読んでも笑えます。

 くわっ
「二刀流やて!?」
 フラッ パラ… スッ ぐぐ… ばっ
「これや! 逆二刀!!」
 かっ

 乾さんの感情と共に生まれる多彩な効果音たち。
 乾さんから見たもなみちゃんは、再起のきっかけをくれた女神と言えるかもしれません。だから好きになったのか。

 六三四の武者修行は、ついに修羅のいる奈良まで及びます。
 このとき、修羅は母親そっくりの女性に恋をします。
 母親そっくりの女性に恋をする……修羅の心の闇が見え隠れします。
 そして、東堂国彦と六三四の再会。このころにはわだかまりはすっかりとなくなり、友好的に話ができました。六三四の成長っぷりに感動します。国彦の「大きくなったなあ」は、単純に身長のことだけではないでしょう。 
 そして、六三四は盛岡に帰還します。

 大石の部活のしごきの描写は恐ろしいです。

「みんな脱水症状起こしてバタバタ倒れるわ、血のしょんべんは出るわ」

 この文章が怖くて怖くて仕方がありませんでした。この漫画は私に運動部に対する偏見を植え付けたかもしれない(笑)。
 厳しいしごきの裏にある大石の想いを知り、部員はみんな感動するのですが、これは美談じゃないでしょう。部員が体を壊したり辞めるまで追い込むのは本末転倒です。大石は六三四にとってはよき師匠ですが、普通の人間にとってはあまりよい指導者とはいえなさそうです。
 このころから嵐子は、六三四のように全力で剣道に取り組めない自分に無力感を覚えるようになっていきます。そりゃあ、六三四はバケモノなんだから同じようにできるなんて思ったらいかんよ……落ち込むことないよ……。


 中学時代を飛ばして高校生編が始まりました。立派に成長したキャラクターたちに、どんな中学時代を送ったのか想像が膨らみます。そして武者先輩や乾さん、風戸さんといった、新たに魅力的なキャラクターが登場しました。

 →次の記事「高校二年・母の闘い」編へ 

 ■総合目次■ 
 「乾俊一について熱く語る」編へ  
 「修羅の剣」編へ  
 「見どころとキャラクター」編へ 
 「子供時代・試練まで」編へ
 「剣を捨てる、そして」編へ  
 「高校二年・母の闘い」編へ  
 「高校三年・インターハイ前の青春」編へ  
 「インターハイ・最終回まで」編へ  


 

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