『六三四の剣』〜「高校三年・インターハイ前の青春」編〜
1981年発表(日本)
著作、村上もとか
※ネタばれ含む
六三四(むさし)という少年が剣道を極める王道スポ根漫画。
岩手の虎・夏木栄一郎と、東北の鬼ユリ・佳代という剣道夫婦の間に生まれた六三四が、剣道家として成長していく過程を描いた大河漫画。
〜ほのぼの青春〜 高校日本一を目指して部活に励む六三四と嵐子。
六三四と自分を比べて卑屈になる嵐子に、「お前のこと天才だと思っている」と六三四が言うシーンは素敵です。
高校に入ってすっかり活躍が見られなくなった嵐子というキャラクターを救ってくれて、とてもよかったと思います。
しかし、嵐子は足を痛めてインターハイに出られなくなってしまいました。
剣士としての嵐子はここで退場です。
男女戦、両方を描くのが大変だったのだろうと思うのですが、やっぱり嵐子にも日本大会で活躍してもらいたかったですね……。
奈良からは修羅が、鹿児島からは日高が、熊本からは有働が、そして東京都からは乾がそれぞれインターハイへと上がってきました。
乾が東京から出場したことで、今まで一切注目されなかった東京が六三四の剣世界に名を見せます。
乾、今度は東京からとな。おそらく学校にも通わず孤島にこもって修行していたと思うので、通信制にでも転入したのでしょうかね。東京ならそういう学校も多そうですし。
奈良から高校でいきなり岩手に引越、それから東京の高校に編入しなおしているという乾の遍歴が気になります。岩手に来たのは、母親が死んだか、いよいよ見捨てられるかしたのかな? 彼の遍歴は複雑でとても気になります。
いろいろとむちゃくちゃさせてもらっているから、なんだかんだで父親には可愛がられているのかもしれません。というか金銭だけもらってほったらかし状態なのか。
六三四が嵐子のお見舞いをするシーンは、子どもにおんぶを「ホワホワず〜」と冷やかされたりとほのぼのシーンです。
「オレ、おめになにかしてやれることあるか? どんなことでもいいぞ! オレになにかできることがあったらいえ!」
なんだかんだと厳しいことを言いながら、優しい六三四が素敵です。
ここのシーンは純で青春って感じがしていいなと思います。この後に波乱万丈があるので余計に。
〜立ち込める暗雲〜
母・佳代の結婚式当日では、垰山分校時代のキャラクターも再登場するところがいいですね。あとは犬の十一も。しかし、つる子はどうなったんだ? まあ出したら出したでややこしくなってしまいそうですが。
結婚式にはもなみちゃんも来ていました。しかし、様子がおかしいです。
なんと、盛岡に帰還している乾から会いたいと連絡があったと。もなみちゃん、震え切っています。
そして、約束だけしてすっぽかして来てしまったというのです。罪悪感に震えるもなみ。もなみちゃんに寄り添いなだめる六三四。
乾はかわいそうですが、用事があるのは本当ですからね。しかも冠婚葬祭ですからね。「六三四くんのお母さんの結婚式に出席する」なんて言おうものなら、絶対、会場まで乾さんきますからね。もなみちゃんも困っただろうな……。
「乾さんの真剣さが怖い」というもなみ。彼のことになると自分が普通でなくなってしまう、と。
そりゃそうだろ、乾の行動は異常だから! 可哀想に、すっかりノイローゼです。
それにしても乾さんが一体、どんな恋文をしたためていたのかとても気になります。
一方の嵐子は、バイク仲間の男性(ジンちゃん)に会場近くまで送ってもらいます。そして寄り添う六三四ともなみを見てしまいます。
ジンちゃん語録。
「例の剣道ボーイが好きかい?」
「まんず……俺もとんだピエロだぜ」
木に手をそえながら、「あれが…お前の好きな男かよ」
不良たち相手に拳をかまえつつ、「けっ」
嵐子をモノにするために仕込みでぼこぼこにされるまでやるとか、芝居が細かすぎるだろうと(笑)。
仲間たちによっぽど嫌われていて、ここぞとばかりに殴られたのですかね。
そして夜遅く……岩手公園のベンチに、一つの陰があった!
そう、乾は夜までずっともなみを待ち続けていたのだ。何時間待っていたんだよ!! 常軌を逸しとるわ!!
通り雨でもあったのか、服は濡れた状態で、ぽつんと幽霊のように座っているので通りすがりのカップルに「驚かせやがって」と悪態をつかれたりと悲惨です。
このシーンがあまりにも衝撃的で、乾さんを好きになってしまいました。
その後ももなみの家に無言電話をかけたりと、ストーカー行為をさく裂させる乾さん。もなみちゃん宅近くの公衆電話から夜遅くに無言電話、あまりにも怖い! 言ったら悪いが気持ち悪い! 乾さんは見た目も態度も硬派なのに、やっていることがストーカーなのが面白いです。
そして――。
六三四と顔を合わすのを避け、ジンと仲良くなっていく嵐子。嵐子の前に乾の姉が現れ、「ジンはやめておけ」と忠告します。嵐子、反発。
まあ、相手が乾の姉じゃあ、嵐子も話を信用できないでしょうね。乾の姉ですからね。
それにしても乾姉弟は六三四周りの人間関係に詳しいな。亮子は親切心もあっただろうけど、弟の恋の成就のために六三四と嵐子を引っ付けようという魂胆もあったかもしれないですね。
六三四が部活帰り、久々に嵐子に会いに行こうとする道すがら、怪しい男たちに拉致されます。このシーンが、いかにも怪しい感じで、まるで時代劇のようで面白いです。
連れていかれた警察道場には、大きな夏木栄一郎の写真が飾られていました。みんな、今でも夏木先生の剣道魂が生きていると信じているのだと。
ここまでくると狂っているぜ……!
「岩手の虎、ついに誕生か」
稽古の後、六三四を見送る大石。大石は、自分が「岩手の虎」になることより、六三四を「岩手の虎」にすることにこだわるところが、けなげだなあと思います。
雨に濡れながら、大笑いして橋を飛び降りて走ったりと、ハッスルする六三四が面白いです。
一方嵐子は、ある男への復讐のために深夜、日本刀を持って家を出ます。そこで六三四に遭遇。警察との稽古のあと、ちゃんと嵐子の家に来たんですね。
屈託のない笑顔で話しかける六三四。日本刀を貸してくれといいます。
「こんなものを持ってどこに行くのかわけを聞かないのか」という嵐子。それに対する六三四の返事が素敵です。
「しゃべりたいのけ?」
「しゃべりたくなければしゃべるでねえ…おめのそんななさけねえ顔はじめてみたぞ」
やだ六三四、いい男。
そして嵐子をおんぶし、山へと走っていきます。父親の葬式の日、岩手山を見ながら素振り1000本をした場所です。
今夜は、日本刀で素振り10000本をすると。
素振りのシーンは、葬式の日のこととか嵐子とのこととか、いろんな悲しいことを吹っ切ってくれる壮大さがあって感動します。
六三四が嵐子に「にこっ」と優しく笑いかけるコマがたくさんあるのも印象的な優しいエピソードです。
このようにインターハイの前にそれぞれの恋模様が展開されました。クライマックスに向けて人間関係がまとまっていく感じがしました。
→次の記事「インターハイ・最終回まで」編へ
■総合目次■
「乾俊一について熱く語る」編へ
「修羅の剣」編へ
「見どころとキャラクター」編へ
「子供時代・試練まで」編へ
「剣を捨てる、そして」編へ
「高校一年・武者や乾の登場」編へ
「高校二年・母の闘い」編へ
「インターハイ・最終回まで」編へ
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