『六三四の剣』〜「子供時代・試練まで」編〜
1981年発表(日本)
著作、村上もとか
※イメージ画
※ネタばれ含む
六三四(むさし)という少年が剣道を極める王道スポ根漫画。
岩手の虎・夏木栄一郎と、東北の鬼ユリ・佳代という剣道夫婦の間に生まれた六三四が、剣道家として成長していく過程を描いた大河漫画。
六三四の生まれたところから物語は始まります。
〜主人公について〜
≪夏木六三四(なつきむさし)≫
『六三四の剣』ワイド版1巻・7巻
「岩手の虎」と言われる剣道の達人・夏木栄一郎。
女子剣道日本一に輝いた「東北の鬼ユリ」佳代。
――という、剣道家の両親の元に生まれたのが六三四です。
六月三日四時に生まれたから「六三四(むさし)」と名付けられました。
子供のころはむちゃくちゃな悪童でしたが、だんだんと成長していき、高校生編では立派な人間に成長しています。全編通してみると、六三四の成長っぷりに感動すら覚えます(笑)。
父と同じ「上段」の構えを使います。上段は気迫が大切な構えで「火の位」と呼ばれます。
上段を構え、背後に不動明王を召喚する姿は迫力に満ちています。
剣道の試合で父を失うという衝撃的な過去を乗り越え、「第二の岩手の虎」となるために突き進みます。
前向きでしっかりした性格なので、見ていて元気をもらえる主人公らしいキャラクターです。
〜平和な子供時代〜
犬の十一に出会ったり、最初のライバル・大石巌に出会ったりと、重要な出会いが一話目からあります。
大石は悪ガキ大将なのですが、六三四が高校生になった時にはすっかり大人になり、部活の監督として再会します。見た目は子供のころから変わりませんが、冷静な言動で六三四を導き、すっかり格好よくなります。まあしごきはめちゃくちゃで、こういうところはガキ大将のころの性分が残っている感じがします。
大石の子供のころのエピソードだと、盛岡城でのバトルのくだりが面白かったです。クレイジーすぎる。
『六三四の剣』ワイド版1巻
このころの大石は悪ガキで本当に怖かった……。
- また、幼少期の話だと、「父のツマヨウジ」が印象に残っています。剣道は竹刀の動きも大切だが、それ以上に足さばきが重要だということ。華麗なる足さばきと、つまようじ一本で酔っ払い4人を倒す父親の姿が格好良いです。
それから、嵐子の初登場の話。つばぜり合いのさなか、嵐子が六三四に「ひきょうもの……」とささやくシーンは印象に残っています。
突然のことに動揺した六三四は一本取られてしまいます。しかし、試合中に相手をなじる発言をした場合には反則扱いとなります。審判に嵐子は詰め寄られますが、六三四が「そいつは何も言っていない」とかばいます。「早く延長戦で戦いたい」と。
六三四が苦戦したこと、試合中になじってきたこと、六三四がそれをかばったこと。いろいろと衝撃的でした。
昇級試験で、自分よりも弱い人間が高い評価を受けることに文句を言う六三四を、母が諭す話。級や強さだけにこだわるのが剣道ではない。何事も心意気が大切なのだと教えてくれます。
クソガキ(笑)の六三四が人間として成長していく姿が描かれているので、読んでいる側も一緒に成長することができます。少年漫画はこうでなくては。
永遠のライバル・東堂修羅と出会うのは6歳の時です。
修羅に会う前に見た「阿修羅像」のイメージが抜けず、六三四は巨大な阿修羅像が襲ってくる悪夢を見ます。この悪夢がとにかく怖いです。『六三四の剣』の演出はときどきホラー漫画並みに怖いものがあって、トラウマになっている箇所が多いです。
不安を抱えながら、会ってみると、修羅は腕が6本あるわけでもない、びっくりするくらいの穏やかな子供でした。
修羅は、名前の激しさとその実力と対照的に、物腰穏やかで優しい性格、お坊ちゃんな見た目というギャップがよいキャラクターです。
しゃべり方も、同じ関西なまりでも乾さんとは違うはんなりした上品さがあります。
修羅との稽古で突き技を食らって気絶した六三四が、その晩に見た悪夢がホラーでした(自分ののどを修羅の竹刀が貫通するというもの)。演出が怖くてとても記憶に残っています。六三四の修羅に関する夢は怖いものが多いです。六三四は常に勝気ですが、実は無意識でかなり修羅の強さへの恐怖があるのかなと思いました。
夜、子供同士の話をして、六三四と修羅は打ち解けます。修羅は「ボクが稽古で打たれると、母さんも打たれる」と衝撃の告白をします。修羅が稽古で打ち倒されると、母親はかばうように飛び出してくる。すると稽古の邪魔だと父親が叩くのだと。「病弱な母にそんなことするなんてひどい!」と六三四は憤慨します。
これ、実際は、肩のあたりを竹刀の先でつつくだけなのですが、修羅の言い方が大げさなので、まるで激しいDVをしているかのように聞こえます。
東堂父にあらぬ誤解が……。まあ竹刀の先で小突くのもほめられた行動ではありませんが。
『六三四の剣』ワイド版二巻
このイメージ映像はヤバい。
それから東堂父が柱に「突き」で穴をあけるシーン。
「う、うそだー、竹刀さ柱に突き刺さったりするもんけー!」
読者みんなの気持ちを六三四が代弁してくれました。
作中でも東堂父は描かれ方が特別で、とにかく「恐ろしい」存在として描かれています。最後の最後までその威厳を保ち続けたのがすごいところです。
そして、東堂父に勝つための修行をするため、仕事(警察官)を辞めると言い出す六三四父(!)。この世界の住人の剣道への入れ込み具合はヤバいです。
六三四母と父の出会いは、母が学生運動でゲバ棒持って機動隊と衝突したところ、その中に父がいたというものです。母親は何か思想があったわけではなく、ただただ戦いを求めて学生運動に参加していたという……何という戦闘狂。こういう人だから父のわがままも受け入れられるのでしょうね。
父の山籠もりについて行った六三四が、墓石を六三四が倒すエピソードは笑いました。このころの六三四は本当にむちゃくちゃをする子供で、そのむちゃくちゃ具合が面白いです。
武者修行を終えた父が東京の道場で稽古をつけてもらいに行くのに、六三四も同行します。そこで修羅と再会を果たします。修羅はずっと剣道ばかりやっていておそらく友達がいなくて、六三四と仲良くなれたこと、再会できたことを心から喜んでいるのですが、六三四はライバル視して闘志を燃やしてばかりです。修羅の純粋な友情の気持ちが六三四には通じていなくて、子供時代編は修羅が可哀想でした。高校生になるころには、お互いに親友・剣友になっていますが。あのむちゃくちゃな子供だった六三四が、どんな中学時代を送ってあんな立派な高校生になったのか気になります(笑)。
〜父の死〜
そして、全日本大会で、六三四の父・夏木栄一郎と修羅の父・東堂国彦は戦います。東堂の鋭い「突き」で夏木は場外まで吹き飛ばされましたが、立ち上がります。とても立てないような突きだったにも関わらず立ち上がられて、焦る東堂。そりゃそうだよ。剣道って技を決める競技のはずなのですが、この世界では戦闘不能になって負けることが多々あります。恐ろしい。
最終的に勝負は夏木の勝ちとなりました。このとき、修羅が泣きながら父に言います。
「みんないうとった。父さんは鬼みたいに強いって……けど」
「普通の人と同じように負けることもあるんや」
「ボク……うれしいんや! 父さんは鬼やあらへんのやね!」
東堂、ニッと笑って「当たり前だ」と答えます。
どんな怖い父だったんだ……とツッコみたくなると同時に、当たり前だ、って笑うところがいいなって思いました。
しかし、国彦の激しい「突き」は、栄一郎ののどを破り血まみれにしていたのです。これには国彦本人が一番驚愕していました。
さすがは柱に穴をあける「突き」だ……もうこれ、人間に使ったらあかんやつやろ……。
夏木は怪我を隠して試合を続け、大会に優勝します。しかし、優勝後、死亡してしまうのです。
六三四の人生最大の試練の出来事です。
怪我をかたくなに隠そうとする夏木の姿、その真剣さが怖いほどの演出です。
これまで、楽しく進んでいた物語の中で、「人が死ぬ」、しかも主人公の父親が……というのは子供心に衝撃を受けました。その死の描写が、リアルだから余計に心にのしかかります。
その後、国彦は修羅を連れてすげなく奈良へ帰っていきます。その冷徹な姿に非難の声があがります。また、追いかけてきた六三四に「お前がとっちゃを死なせた」となじられる始末。国彦は「そうだよ六三四君。私が君のお父さんを殺した」と答えます。真っ黒に塗りつぶされた顔の中で目だけ浮き上がっているのが怖いです。
このとき、国彦が泣いていることに気づいたのは修羅だけでした――。
泣きそうなのを悟られないように、足早に立ち去り、六三四を突き放したのだと思います。人前で弱みを見せようとしない国彦の姿が胸を打ちます。国彦はんも強がりなお人や……。
六三四はこの日から、父殺しの相手として東堂国彦を恨むようになります。
お葬式で、あの悪ガキの大石が泣いている姿は印象的です。六三四の肩をつかみ「お前が第二の岩手の虎さ、なれ!」と泣きながら叫びます。大石、剣道に対してだけは真摯な男だな……。一番最初に六三四に立ちはだかった大きな壁・大石巌は、最後まで六三四の壁であり師匠であったところがよかったです。
天国の父に見せるために、生前に連れてきてもらった場所で、岩手山を見ながら素振り1000本を行うシーンは壮大です。この場所での素振りは高校生になったときも行います。その時のお供は十一ではなく嵐子でした。使うのも竹刀ではなく真剣。回数も10000本。年月と成長を感じさせてくれるいいエピソードです。
葬式のあいだ毅然と耐えていた佳代(六三四の母)が、車内で泣く演出は胸に来ます。
大石や嵐子、修羅との出会い。偉大な父母との楽しい生活。そして父の死……。子供時代前半には『六三四の剣』の方向性を決める重要なエピソードがたくさんありました。
→次の記事「剣を捨てる、そして」へ
■総合目次■
「乾俊一について熱く語る」編へ
「修羅の剣」編へ
「見どころとキャラクター」編へ
「剣を捨てる、そして」編へ
「高校一年・武者や乾の登場」編へ
「高校二年・母の闘い」編へ
「高校三年・インターハイ前の青春」編へ
「インターハイ・最終回まで」編へ
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