『Coo 遠い海から来たクー』〜自然と生きる〜
1993年公開(日本)
監督、今沢哲男 原作、景山民夫 脚本、岡本喜八
※イメージ画
※ネタばれ含む
洋助少年は、海洋生物学者の父とともに南の島・パゴパゴ島に移り住んで3年がたつ。イルカ夫婦・ブルー&ホワイトチップや、犬のクストーといった動物たち、陽気な島の人たちと一緒に平和に暮らしていた。嵐のあった翌日、洋助は浜辺に打ち上げられた謎の生き物の赤ちゃんを拾う。それは、古代にほろんだはずの水生爬虫類生物・プレシオサウルスの子供だったのだ。その鳴き声から、赤ん坊に洋助は「COO(クー)」と名付ける。
環境保護団体メンバーのキャシーと共に、洋助と父親はクーを狙う組織と戦うのだった……。
アンパンマン・ドラえもん・クレヨンしんちゃん・ゴジラと並んで、子供のころ、風邪で学校を休むたびに繰り返し見ていた思い出深い作品です。
登場するのは首長竜だけれど、現実社会の環境問題にも通じるような深い内容となっています。
まあストーリーは若干無茶があるというか、ツッコみどころも多いですがそこはおいておいて(笑)。
子供でも楽しめる作りになっていますが、展開がかなりハードなのでどちらかといえば大人向けの印象です。
この作品の見どころは、とにかくクーが可愛いことです。いかにクーをかわいらしく見せるかに全力を尽くしたような作品です。
ちょっとリアルで一歩間違うと不気味の谷を越えてしまいそうなデザインながら、絶妙なバランスで「可愛い」に収めています。
大きなうるうるした瞳、無邪気な動き。眠る姿、犬とじゃれる姿、鳴き声、ひれでピタッと抱き着いてくる所作、すべてが可愛いです。
キャシーが「最高よ」って表現しますが、まさにその通りです。
洋助はクーを海辺で拾い、母親代わりとなって育てることとなります。洋助もまた、4歳の時に母親を失っており、クーにかける愛情で自分が母親から受けた愛情を追体験しているような節があります。
ジェットスキーでイルカと通学中に拾う……というのが夢があっていいです。
平和にクーを育てていた洋助たちのところに、謎の女性カメラマン・キャシーが現れます。
キャシーはスタイルのよい美人で、お父さんは若干ドキマキしますが、亡き奥さんの写真を見ることでその感情はすぐに鎮静化します。
キャシーを警戒する父子でしたが、キャシーは敵ではありませんでした。
本当の敵はフランス政府で、クーを狙ってなんと特殊外人部隊を送り込んできます。この部隊が、島民は殺すわ、人の家の犬を平気で撃つわ、それどころか子供まで殺そうとするわ、やることがめちゃくちゃです。フランス政府狂暴すぎるやろ。というよりあの大佐がちょっと異常っぽい。部下も若干引いているレベル。
なんかプレシオサウルスに恨みでもあるのか、それとも意地になっているのか。
クーを狙う理由が途中で明かされます。
クーの一族が、フランスが核実験を行おうとしている海域に住んでいるという事実。
そのことが世の中に知られると、実験の反対運動が起こることが目に見えているから、証拠隠滅のためにクーの一族やクーを始末しようとしているのです。
このころ、フランスはちょうどそのような実験をしていた時期らしいので、これはかなり攻めてるなーと思いました。
そりゃあDVD化されませんわ……。
そんな相手達と洋助、父、キャシーは戦います。キャシーは環境保全団体の一員で、戦闘能力も高く相手の軍人に引けを取らない戦術を見せてくれます。子供心にキャシーがとても格好良かったです。
対するお父さんは、敵を倒しても武器を回収しなかったり、そのまま帰したりと優しく甘いです。
敵を帰す時に「話し合いで解決したい」とボスに伝えるよう頼むお父さん。
「ちゃんと伝える。あんたのことは一生忘れないよ」
敵のこの言葉は嫌味もあるが本音でもあるでしょう。
そのことにいらだつキャシー。
「じゃああなたは蚊に刺されてもたたきつぶせないんだ」
この台詞は妙に印象に残っていて、子供のころから今日に至るまで事あるごとに思い出します。
お父さんが非暴力的なことには理由がありました。
洋助の母親は相手の過失による交通事故で亡くなっているのですが、加害者は政治家の息子で、刑務所に入るのを免れたということ。
洋助の父は、加害者を裁判所の前で入院するまで殴ったと……そのことを今でも後悔しているのだと。
だから、こんな状況でもたとえ自己防衛でも暴力を振るうことをためらっているのです。
母親についての話をキャシーに打ち明け、涙を流す洋助。彼をキャシーは優しく抱きしめます。
穏やかなお父さんの過去の話は子供心に記憶に残っています。暴力をふるうってことに対してすごく考えました。
お父さんの気持ちも理解しつつ、それでも洋助は、クーを守るために戦うことを決意します。
洋助の年齢は12歳。体力的にも精神的にも大人に近いけれど、まだギリギリ子供の年齢。これが子供らしさがありながらも立派に戦う展開にちょうどよい設定なのだと思いました。
小さな家にろう城してプロの兵隊と戦うシーンは緊迫感があります。
一度目は組織を追い払ったものの、二度目の襲撃でついにクーを奪われてしまいます。
クーは生物学者に引き渡されましたが、研究のために解剖される可能性まで……。
洋助はジェットスキーでクーを載せたボートを追いかけます。イルカの夫婦、ブルー&ホワイトチップと共に。
しかし、ここで悲劇が起こります。
ヘリコプターに乗っている大佐と兵士。
「どうしますか大佐」「撃つんだよ」
マジキチ大佐の命令によって、銃撃される洋助。ジェットスキーは壊れ、撃ち殺されそうになったとき――。
洋助をかばうように大きくジャンプしたブルーが、代わりに撃たれて血を噴きだします。
ブルーはメスイルカで、洋助にとってはお母さん代わりでもありました。ブルーは優しい目で洋助を見ながら、海に沈んでいきました。ブルーの遺体が沈まないようにホワイトチップが下から寄り添っているのが切ないです。物語の中でも一番といっていいくらい衝撃的で悲しいシーンです。
その後、態勢を立て直してから、再びクー奪還に出る洋助たち。
ここで唐突なテレパシー設定(笑)。洋助とクーのテレパシーでのやりとりによって停泊中の船にクーがいることが判明します。
洋助は単身、船に乗り込み、クーを海に逃がしますが、自分は捕まってしまいます。
その後、洋助を開放してもらうためにお父さんとキャシーはボートで船に近づきます。クーもついてきます。解放された洋助と再会し、喜ぶみんな。
クーは無邪気に海を跳ね回ります。
しかし、なんとそのクーを、大佐は船の機関銃で狙い撃つのです。弾は当たらなかったものの、初めて人間からの直接的な攻撃にさらされるクー。
洋助を含む人間すべてを信じられなくなりおびえるようになってしまいます。銃撃した戦艦と洋助たちのボートの形が似ていたことも、原因のようです。ここの演出はうまいと思いました。
この時の、クーの泣きそうな悲しそうな目が胸に刺さります。クーは目を潤ませたまま、海の中に消えてしまいます。洋助が呼んでも戻ってきません。
そんなこんなの中、フランス艦隊の前にボート一隻で立ちふさがる洋助たち。勧告を受けてもどきません。
そして、海の中に無数の潜水艦が現れます。いえ、潜水艦ではありません、プレシオサウルス――クーの一族の群れが現れたのです。
クーは一族を連れて洋助たちのもとへ戻ってきたのです。
古代生物の姿に思わず見とれる艦隊。時を同じくして、反対運動の激化により、核実験は中止となります。クーの一族は助かったのです。
反対運動の発端となったのは、洋助がつけていたクーの観察絵日記でした。その絵日記のデータを、キャシーが全世界にファックスでばらまいていたのです。
また、洋助自身も、「親愛なるアメリカ合衆国大統領様。どうかこんなに可愛いクーを殺さないでください」と嘆願を出していました。
洋助たちの想いが全世界に通じたのです。
ここのくだり、今ならインターネットでyoutube動画だったりするんだろうなーと思ったりします。
ここまで来ても、クーを撃ち殺そうとする大佐。ついには部下に殴られ止められます。部下の兵員たちも、プレシオサウルスたちを目の当たりにして胸を打たれたのかもしれません。
船の前に立ちふさがるプレシオサウルスの大群は圧巻です。
近寄ってくるクーに、手を伸ばしかけて、洋助はお父さんに止められます。
洋助は、クーを拾ったとき、お父さんと約束しました。
「自分で餌をとれるようになったら海に帰す」と。
拾ったときは50センチだった体長も、今では倍に。そして目の前には本来の仲間たちが――。
「さようなら、クー」
クーは逡巡したのち、仲間たちと一緒に海に帰っていきました。
夕日をバックに飛び跳ねるクーの後ろ姿で物語は終わります。
キャッチフレーズは「いつまでも、ずっとそばにいて欲しい…」
テーマソングは「ずっとそばに」
けれど、最初からクーは海に帰すことが示唆されています。そして、最後にはその言葉の通り、仲間たちのもとへ、海へと帰し、お別れするのです。
クーとのお別れがものすごく切ないです。けれど、それがクーのためであり、自然と関わって生きていくということなんですよね。
環境保護や動物愛護についてなど深く考えさせられるお話でした。
同時に、映像のクオリティが非常に高く、自然が本当に美しいです。また、銃火器によるバトルはかなり気合が入っています。
動物好き、バトル好き、UMA好きならとても楽しめる内容です。
DVD化されていない作品なので、そのうち見られなくなってしまうと思うと残念でなりません。
あまりにもあからさまに実在する国などが登場するのがDVD化できない理由の一つではないかと思っているのですが(苦笑)。
今後も語り継がれていくべき名作だと思います。
その他。
主要のキャラクター以外にも魅力的なキャラクターが多く出てきます。
マザコンの酋長や、旅客機運転手のトニー。
トニーは恐竜好きでクーをすぐに受け入れてくれたし、洋助たちを助けるために軍事ヘリと戦ういいやつです。
セリフ回しがハリウッドの映画っぽくてそこもいいです。
スタンガンの説明をキャシーから受けたときに「じゃあ死んじゃうね」と普通のテンションで言った洋助がちょっと面白かったです。
これは洋助の声優が子供で、演技があまりうまくないからもあるのですが。
他の人は気にならないのですが、洋助だけは声優に違和感があって、それだけは残念でした。
他は文句なしの映画です。
クーが可愛いので何度でも見たくなります。
「遠い海から来たクー」という題名も、ロマンがあってとても好きです。
キャラクター萌えとしては、ケモノ・ショタ・おじさん・大人のお姉さんと守備範囲の広い作品でもあります(笑)。
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