『煙か土か食い物』〜恩讐の彼方に今がある〜
2001年出版(日本)
著作、舞城 王太郎
サンディエゴに住む腕利きの外科医・奈津川四郎は母親が怪我で入院したという一報を受けて故郷・福井県西暁町へ帰る。そこで起こっていた連続主婦殴打生き埋め事件に母親は巻き込まれたのだ。母親を鈍器で殴り生き埋めにし意識不明に追いやった犯人に主人公は怒りをたぎらせ復讐のために行動を起こす……。
主人公が好きになれず、肌に合わないなと思いながら読み進めたが最終的には不覚にも胸に迫るものがあった。
それはこの作品内で描かれていることが、自分自身の中にあるものへ通じているからだろう。父子の確執どうとかそういう限定的な話ではなく。
面白いネタやトリックがありびっくりするどんでん返しがありうまい構成がありといった小説はたしかに面白いが、心に残る作品になるかどうかはやっぱり人間の感情が描かれているかどうかだと思う。 正直、最初はガサツな地の文で奇をてらっているだけの作品かと思っていたがそうではなかった。この作品は文学でありそこには人間が在った。
最初と最後で読み手の感情をひっくりかえせるというのはすごいことだ。
いくらか心の動いた部分はあったが、一番動いたのはラストの事件での父親の叫び、そして主人公の叫びである。
当初感じた主人公含む登場人物への嫌悪感だとか文章読みにくいだとかちょっとそこどうなのと思う諸々の部分だとか甘ったれてんじゃねーよだとか最後にはどうでもよくなっていて、それこそがこの作品で描かれていることなのだと思った。いや、描かれていることかはわからない。ともあれ自分が感じ取ったことがそれだった。
ま、やっぱり主人公は嫌いだけどね。
嫌な主人公の一人称に最後には感動させられるという「悔しさ」と「爽快感」を読後に置いて行ってくれた良い作品だった。
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◆目次◆
煙か土か食い物
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