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『ルドルフとイッパイアッテナ』〜一番好きなシリーズ〜
1986年出版(日本)
作、斎藤洋 絵、杉浦範茂

 ひょんなことから迷い猫になったルドルフが、野良猫イッパイアッテナに出会い成長する話。


※ネタばれあり



 私の大好きな作品です。
 続編の『ルドルフともだちひとりだち』と共に、子供のころ何度も読み返しました。
 この小説は猫が書いたものを筆者が清書したという設定 で、そこからしてワクワクします。

 ひょんなことからトラックに乗って岐阜から東京に来てしまったルドルフ。迷い猫としてその土地の野良ボス「イッパイアッテナ」と生活をします。
 自分が猫を飼っているから、とても感情移入をしました。ルドルフにもですし、特にルドルフの飼い主のリエちゃんの気持ちを考えて、胸が苦しくなりました。

 ルドルフはイッパイアッテナと過ごすうちに精神的にも成長していきます。
 最初はイッパイアッテナに「教養がない」 とバカにされていましたが、だんだんと「教養」を身に付けた猫になっていくのです。

 ルドルフの成長は、読者の私にとっても成長になります。
 誰にでも聞かれたくないことはある。無理に聞き出そうとしてはいけない。
 こういうことを、読みながらルドルフと一緒に学んでいくことができます。

 話の中で、イッパイアッテナが激怒するシーンがあります。
 それは、ルドルフがこういう台詞を言った時です。
「口ほどにもねえやろうだぜ。二度とこのへんをうろついてみろ。こんどは両耳ちょんぎって、ドラえもんみてえなツラにしてやるから、そう思え!」
 これは、イッパイアッテナが悪さをする野良犬を倒したときに言った言葉です。
 それを真似してルドルフはイッパイアッテナに言ったのです。
 ルドルフはほんの冗談だったのですが、イッパイアッテナはルドルフのほほをぶちました。
 ルドルフがイッパイアッテナに叩かれたのは初めてでした。
「な、なにするんだよ。」
「なにするんだよじゃねえ、どこでそんなことば、覚えてきたんだ」

 泣きそうなルドルフにイッパイアッテナは言います。

「なあ、ルド。ぶったりしたのは、おれが悪かった。いたかったか。すまなかったな。でもな、ルドルフ。まあ、そこにすわれよ」
 ぼくは、ふくれっつらをして、砂の上にすわった。
「ルド、おれは、まえからおまえにいおうと思っていたんだけどな。おまえ、このごろ、ことばがきたなくなったんじゃないか。(中略)ことばを乱暴にしたり、下品にしたりするとな、しぜんに心も乱暴になったり、下品になってしまうもんだ」
 中略
「それからな、おまえがまねをしたおどしもんくはな、そうそう安っぽく使うもんじゃあいし、用もないのに、軽はずみに、口に出していいってもんじゃないんだ。はったりで使ったりしてはいけないんだ。あれは、おれがいぬとわたりあったときにいったせりふだ。あいつだって、好きでノラいぬやってたわけじゃないだろう。わかるだろ、ルド。」
 ぼくは、だまってうなずいた。
「わかれば、それでいい。ぶったりして、ほんとうに悪かったな。」

 ここのやりとりはとても印象に残りました。
 イッパイアッテナが、ルドルフを叱る前に、まずは叩いたことを謝るところがいいです。
 それからあとは、激昂するわけでもなく、静かに諭していきます。
「ことばを乱暴にしたり、下品にしたりするとな、しぜんに心も乱暴になったり、下品になってしまうもんだ」
 この言葉は、今でも時々思い出して、自戒にしています。

「でもな、おまえ、いつか自分の家に帰りたいんだろ。飼いねこにもどりたいんだろ。そんな下品になっちゃったねこを、おまえのリエちゃんがよろこぶとでも思ってるのかよ。え。どうなんだ。」

 この台詞もすごく好きです。イッパイアッテナはリエちゃんを指すときに「おまえのリエちゃん」といいます(ルドルフも『ぼくのリエちゃん』という)。この、猫たちのこまっしゃくれた感じが面白いです。
 また、イッパイアッテナの、自分は野良だけど、ルドルフは飼い猫に戻してあげたいという優しさに感じ入ります。

 イッパイアッテナのほかにも、ブッチーという猫も出てきます。彼は飼い猫で、お調子者ですが気さくでルドルフと仲良くなってくれます。
 ブッチーが字が読めないのをいいことに、ルドルフが悪口を書いてからかうシーンがあるのですが、本気で怒らないブッチーは心が広いなと思いました。
 のちのシーンで飼い猫嫌いのイッパイアッテナから理不尽にすごまれたときも、相手を気遣う優しさを見せていました。

 そんなこんなをしているうちに、ルドルフはついに生まれ故郷の岐阜に帰るチャンスをつかみます。
 観光バスに乗って岐阜まで行くという方法。出発の時間を逃したらもうチャンスはありません。
 といっても、何事もなければ岐阜には行けるはずだったのですが……。

 実はここで大きなトラブルが起こります。
 イッパイアッテナの知り合いにデビルという飼い犬がいるのですが、これがもう極悪なのです。
 今まで何匹もの猫を庭の池に落として溺れさせているという恐ろしい犬です(猫がその後どうなるかは、言葉が濁されていましたが……)。
 イッパイアッテナは、ルドルフが岐阜に帰る前に、どうしても肉を食べさせてあげたいと思って、デビルに餌の肉を分けてくれないか頼みに行ったのです。
 そこでデビルの卑劣な罠にかかり、ひん死の重傷を負わされてしまいました。

 イッパイアッテナは人間の手助けを借りて病院に運ばれ、一命をとりとめたのですが……。
 ルドルフは、岐阜に立つ当日の朝、ブッチーと一緒にデビルのところに行きます。
 デビルは普通に戦っても絶対に勝ち目がありません。
 しかし、もともとルドルフは体の小さな猫です。今までも、力づくではなく頭を使って危機を脱する猫でした。
 今回も一計を案じ、ブッチーと協力して、デビルを倒しました。倒したと言っても殺したのではなく、こらしめたのです。
 そして、このときこその決め台詞。
「口ほどにもねえやろうだぜ。二度とねこに手出しをしてみろ。こんどは両耳ガブリとやって、ドラえもんみてえなツラにしてやるから、そう思え!」
 ブッチーに言われてしまったのですが(笑)。

 無事にイッパイアッテナのかたき討ちを果たした二匹。
 ブッチーはルドルフに、急いでバスに乗りに行かないと間に合わなくなると言いました。
 しかし、ルドルフは言うのです。
「なにいってるんだ。ぼくは、イッパイアッテナがけがをしたときから、バスで帰ろうなんて、考えちゃいなかったのさ。帰る気なら、いつだって、歩いてだって、帰れるし、そのうち、またバス旅行があるかもしれない。あわてて、帰ることはないんだ。それに、こっちでまだ勉強もしたいしな」
 ルドルフは結局、岐阜には帰りませんでした。

 初見時、「あんなに頑張っていたのに、帰りたがっていたのに、帰らないなんて……!」という納得のいかない気持ちと、「大けがをしたイッパイアッテナを残したまま帰れないよな」という、仕方がないかという気持ちが混在しました。
  ルドルフにとって「イッパイアッテナの敵を討つ」と腹をくくるのは、「岐阜には帰らない」というくらいの強い覚悟がないとできなかったのかなと思います。
 ある種のけじめというか。

 猫の物語でありながら、義理と人情にあふれた物語です。

 そして続編の「ルドルフともだちひとりだち」に続きます。
 その感想も改めて書きたいと思います。

 

 そのほか、好きなシーン。

「そんなでけえ口たたいて、おめえ、おれがこわくないのか。」
「こわいから、ししゃもを置いて行くんだ。それでもんくはないだろ。」

 見栄を張らず、ちゃんと怖いことを認め、そのうえで毅然とした態度をとるルドルフがいい。
 そして、結局ししゃもを返してくれるイッパイアッテナが男前。

 自分も「教養のある」人間になりたいと思う作品でした。



 

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