映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』~今の時間だけは本物だから~
2026年公開(日本)
原作 ナガノ
監督 及川啓
声優 青木遥、田中誠人、小澤亜李、井口裕香、淺井孝行、内田雄馬、島袋美由利、春海百乃、最上嗣生、鈴木みのり
※ネタバレあり(原作含む)
あらすじ
ちいかわたちが、「簡単な討伐で報酬100倍」の仕事に惹かれて、とある島にやってくる。そこの住民はたびたび襲いに来るセイレーンと人魚に困っていた。
しかし、セイレーンたちにはとある犯人探しと復讐の為に島を襲っていた……。
【初めに短くまとめた感想】
鑑賞前は、「これはホラー作品なのか」と思っていましたが、観てみるとホラーではなく純文学でした。
見に行った決め手は「大人向けっぽい」でしたが、実際に観ると違いました。
大人も観られるうえでしっかり子供向けの範囲で納めていてすごいです。
言葉で説明しすぎることの多い今の時代に、あえて少ない言葉で深いテーマを描いています。
動いているちいかわたちは反則なくらいに可愛かったです。
好きなのはモモンガです。かわいこぶってる姿が可愛い。
ああいう性格なのに、それでも大切に思ってくれる子(カニちゃん)がいるところにきゅんとなりました。
映画内には出てこない正体についても知っているから、ヒトハ・フタバの業や友情と被って、なんだか余計に切なくなったのもあります。
真面目過ぎないウサギやモモンガがいたことで、深刻になりすぎず楽しく観られたと思いました。
モブは影で表現されて個性がほぼありません。でも、本当はひとりひとり顔があるのですよね?
そう思うと、食べられちゃったりが、よりしんどく感じます。
顔がないから観ることができるし、ないことで考える余地がある。
残酷な部分や複雑な感情を、何もかもを見せないで、人の想像力に最大限に期待した作りがとても良かったです。
また、セイレーンの歌声と人魚のコーラスが怖かったです。歌や音楽で怖い演出をしているのが映画の醍醐味でした。
「いつまでも……」の歌。最初に浜辺で歌ったときと、すべてが終わった後に宴で歌ったときで印象ががらりと変わるのが辛いと同時に怖い。
でも、ヒトハ・フタバの悲壮なまでの決意を考えると、怖いだけではなくて、それでもがんばれと、こちらも悲壮な決意で応援したくなります。二人の罪を黙る選択をしたちいかわのように。
「明日の日を夢見て 希望の道を」。(『今日の日はさようなら』 金子詔一)
悪者が決まっていたなら楽なのに。割り切れない世界で、ヒトハ・フタバに限らず何かを背負いながらも、一日一日を精一杯生きる。明日の日を夢見て。
ここまでが何でも、待つ先がどうでも、きっと今小さな手で握りあった友情は本物だから。
『今日の日はさようなら』は、ちいかわたちみんなの歌なのだなと。
この物語は、人間の葛藤を描いた、純文学でした。
~短い感想終わり。以下、長い詳しい感想~
【はじめに】
ちいかわ。流行っているのは知っていましたが、実はちゃんと話を知りませんでした。
知っているのは「可愛いキャラだけど内容が過酷」「露悪系」「子供向けっぽいけど原作は大人向け」というような偏った情報のみ。
その状態で知り合いから先にネタバレ込みのあらすじを聞いて、「アニメも、イメージより大人向けっぽい」と俄然興味が湧いたのです。
漫画の最初の方と、キャラクターの大まかな設定だけ把握して観に行きました。
鑑賞前は、「これはホラー作品なのか」と思っていましたが、観てみるとホラーではなく純文学でした。
そして、子供向けに見せて実は大人向けというある種の「騙し」系かと思ったら、それも違いました。大人も観られるうえでしっかり子供向けの範囲で納めていてすごいです。言葉で説明しすぎることの多い今の時代に、あえて少ない言葉で深いテーマを描いています。誰かを単純に悪人として描かないところも、子供にこそ観てほしい内容かもしれません。
はっきりとした悪人がいない、誰も悪くない、誰もがちょっとずつ悪いという内容は、スカッとを求める日常に疲れた大人にはしんどさがあるかも?(そこが良い作品ですが)
【キャラクターの可愛さ】
ファンアートがやたらと流れてくるので、「セイレーンちゃん」が可愛いんだな。という心づもりでいきました。白状しますと、私はちいかわたちを「普通にかわいいキャラクター」と思っても、「めっちゃかわいい! 好き!」とは思っていなくて、特別ハマったりもしていませんでした。
しかし原作を読んでみて、キャラクターたちの物語や人格を知ったら、一気に感情移入してかわいくみえるようになりました。
また、映画の動いている姿は本当に可愛かったです。反則です。
セイレーンちゃんと人魚ももちろん可愛かったですが、ちいかわやハチワレたちメインキャラたちがこんなに可愛いんだと驚きました。
好きなのはモモンガです。騙されてもいい、かわいこぶってる姿が可愛い。モモンガはああいう性格なのに、それでも大切に思ってくれる子(カニちゃん)がいるんだ~ってきゅんとなりました。
モモンガは映画内には出てこない正体についても知っているから、ヒトハ・フタバの業や友情と被って、なんだか余計に切なくなったのもあります。
ウサギも面白い。
真面目過ぎないウサギやモモンガがいたことで、深刻になりすぎず楽しく観られたと思いました。
くりまんじゅうとシーサーも良かったです。シーサーは初めて映画で知ったのですが、くりまんじゅうのことを大事に思っている所とか、みんなが深刻になっている裏で二人だけまったりしている姿にほっこりしました。
モモンガとカニちゃんもですが、どんなキャラクターにも仲良しがいるのが良かったです。
セイレーンちゃんについて、映画を見る前にXでした投稿↓
「今更になってちいかわに興味が湧いて漫画読み始めてる。映画も観に行く予定。流れてくるファンアート観てるとセイレーンちゃんと人魚可愛いね❤ 猫の親子みたい。……セイレーンちゃんが可愛いアニメでいいんですよね?」
観た後。
猫の親子みたいなのは合っていました。丸まって寝ている姿がまさしくそれで可愛いです。なお”セイレーンちゃんが可愛いアニメ”でよかったかは議論の余地があります。
どのキャラもみんな良かったです。
【冒頭について】
最初のチラシの内容が完璧に「闇バイト」で面白かったです。
案の定「怪しい」と言われてしまいます。
そんな先生も、甘いものにつられて討伐に出かけていくのが面白かったです。
短いシーンでそれぞれのキャラクターの性格をわかるようにしてくれていて助かりました。
まだラッコ先生が出てくるところまで読んでいませんが、それでもすぐ関係性と性格がわかりました。
巨大スワンによって移動するのもテンションが上がりました。
実は幼少期に巨大なスワン号に乗ったことがあります。
四国内のどこかか、瀬戸内海だと思うのですが。ボートの中が広い座敷(カーペット敷)で、椅子とかがなくてみんなで座る形だったように思います。
強烈な記憶なのですが、どこの会社のどういうものだったのか謎に包まれた記憶です。
私の記憶の彼方のスワン号が!! ちいかわの世界にも!! やっぱあるんだよ、こういうスワンがさあ!! とテンションがあがりました。
【全体の感想】
映画では、セイレーンが住民を「食べてるの」と言ったり、「オリに入れてなんかずっとくらいとこ」に沈めて永遠の命を味わってもらうと言ったり、残酷な話がさらっと出てきます。
そこに至る過程の恐ろしい場面(味噌漬け、檻の沈む様子)はあっても、実際に食べたり沈められる場面は描かれません。
島を出る決意をしたヒトハ・フタバのその後も……。
あえて描かないことで想像をさせるところが、残酷すぎず、あるいは余計に残酷で、そういうところが好きです。
どこまでどういう想像をするかであぶりだされるのは観る側の心の闇かもしれません(!?)。
モブは影で表現されて顔や個性がほぼありません。でも、本当はひとりひとり顔があるのですよね?
そう思うと、食べられちゃったりが、よりしんどく感じます。
顔がないから観ることができるし、ないことで考える余地がある。
何もかもを見せないで、人の想像力に最大限に期待した作りがとても良かったです。
映画の後、モモンガとカニちゃんのエピソードを読みました。やっぱり、友達になったらモブじゃなくて顔が現れるんですね。
そしてカニちゃんは本当のカニ種族じゃなくて、あれはモモンガにもらったカチューシャだったんだ……感動。
神話に出てくるセイレーンがキャラクターとして登場。
おとぎ話として知っている存在がオリジナルとして出てくるとテンションが上がります。
セイレーンの歌声と人魚のコーラスは怖かったです。歌や音楽で怖い演出をしているので、映画で見てよかったです。
「いつまでも……」の歌。最初に浜辺で歌ったときと、すべてが終わった後に宴で歌ったときで印象ががらりと変わるのが辛い。というか怖い。
でも、ヒトハ・フタバの悲壮なまでの決意を考えると、怖いだけではなくて、それでもがんばれと、こちらも悲壮な決意で応援したくなります。二人の罪を黙る選択をしたちいかわのように。
「明日の日を夢見て 希望の道を」。(『今日の日はさようなら』 金子詔一)
実はやっぱり人魚の肉を食べたのがいた
↓
セイレーンの「わかった! わかった!」が、実は違う意味だった。
↓
最後逃げたと思ったのに、追いかけてきていてエンド
の流れだけ聞くとホラーなところを、
「ヒトハとフタバの回想」
「ちいかわが葛藤する」
「震えながら手をとりあう二人をみて黙っている選択をとる」
を間に入れることで、まったく違う味わいのものにしています。
この物語は、人間の葛藤を描いた、純文学でした。
ちいかわたちの生きている世界は楽しいだけではありません。
この世界には「でかつよ(何かでかくてつよいやつ)」という化け物がいます。
これは、ちいかわたちが何らかの理由で体が変化してしまったものです。全部のでかつよがそうなのかはわかりませんが、「でかつよ」はちいかわを襲って食べてくるので、討伐しなければなりません。
(私はセイレーンも「でかつよ」なのかなと思いました。対話できて、何もなければ襲ってこないでかつよもいるのかなという儚い希望)
こんな小さくてかわいい子たちが、討伐という過酷な仕事を負い、バケモノに変わるかもしれないという未来と隣り合わせの世界を生きる。というのが、何とも胸が苦しくなります。
モモンガはじつは元々、「でかつよ」でした。
けれど、「可愛く生きたい」という気持ちを持っていて、それを叶えるために「モモンガ」の体を乗っ取り、元々の人格は今、でかつよになっています。
他人を乗っ取るという悪事を働き、でかつよの頃はちいさい種族を食べていたであろうモモンガ。モモンガになった今もわがままで自分勝手なモモンガ。
それでもカニちゃんという友達がいて、ちいかわたちの人間関係の輪の中にいて。
サガに抗い「可愛くなりたい」と必死に行動する姿にはいじらしさすらあって。
正体がバレたからといって簡単に討伐できる関係ではなくなっています。けれどその陰には、でかつよにされてしまって悲しんでいる本物のモモンガがいます。
相手の事情なんて知りたくない。
「正しいんだよね? 討伐するのが」と悩まないといけないのは辛い。
でもきっと、生きる限り、選択を迫られることはこれからもある。討伐か? それとも別の道があるのか?
悪者が決まっていたなら楽なのに。割り切れない世界で、ヒトハ・フタバに限らず何かを背負いながらも、一日一日を精一杯生きる。明日の日を夢見て。
ここまでが何でも、待つ先がどうでも、きっと今小さな手で握りあった友情は本物だから。
『今日の日はさようなら』は、ちいかわたちみんなの歌なのだなと。
※追記
原作を読み進めるうちに、世界観や人間関係への解像度が上がっていきました。上記の感想と解釈が微妙にずれる部分も生まれました(でかつよはそもそも友好型がいると明示されているのかとか)が、最初観たときの気持ちとしてひとまずそのまま残しておきます。
また、私が乗った巨大スワン号は、おそらく徳島県三好市の池田湖を遊覧していたスワンでした。中身が畳敷きだというコメントを見つけたので、「お座敷(カーペットというのは違っていたが)」という記憶とも一致します。
一世と二世がいたようですが、役目を終えて、今は池田湖近くの水際公園に、二世が胴体を埋められた状態で安置されているようです。
永遠の命だね……じゃなくて、池や公園を訪れる人々を見守ってくれているようです。
幼少期の記憶の答え合わせができて感激です。ありがとうちいかわ。
