「ペリリュー 楽園のゲルニカ」~上澄みと深層と飛田について~
2016年出版(日本)
著作、武田一義
※ネタバレあり
※「ペリリュー 外伝」の内容にも触れています。
あらすじ
戦争末期、南方の小さな島ペリリューでの日本兵たちの戦い。
「絶対に負けてはいけない戦争」を勝つため、激しい戦いと徹底した持久戦を続ける。
終戦したことも知らないまま、2年以上の潜伏を続ける。最終的に生き残ったのは、一万人の兵士のうちのたった34名だった……。
冒頭に短いバージョンの感想を載せます。(要約中にもネタバレあり)
飛ばしても大丈夫です。
長いのを読むのが面倒だーという方はこちらだけでも大丈夫です。
【短いバージョン】
可愛いぷにキャラで過酷な戦争をえがいた作品。
史実にある「ペリリュー島」での戦いを題材としていますが、キャラクターなどはフィクションです。
一万人いた日本兵は、終戦に気づかないまま持久戦を続け、最終的に帰還できたのはたったの34名だった――。
キャラがとても可愛くみんな好きになる。
この可愛いキャラじゃなかったら読もうとは思わなかったかもしれない。
愛らしさが「勇ましい軍人」の鎧をはぎ取り、「柔らかい心を持つ人間」であることを突き付けてくる。
特にかわいい~と思うのはお目目ガチャピンの吉敷くん。
一番好きなのは兵長大好きな飛田くん(彼もかわいい)。
びっくりするくらいあかんことするけど、差別されそうな秘密にも「かっこいいよな」「大変だったでしょ」と言える高木も実はけっこう好き。
しかし内容はハード。
戦争モノだから肉体的にも残酷だが、それ以上に精神にくる描写が多い。
泉くんとかほぼマイルドななるたるじゃないですか……。
「表現上はこう描いている」けどホントは「ここまで感じてね」みたいな空気がずっと漂っています。
えぐい出来事の上澄みを何度も何度も繰り返すことでその下の深層を伝えようとしているのかなと感じました。
私が好きなのは上官の片倉兵長が大好きな飛田上等兵。
敵だけでなく仲間も「狂ったか」となるとすぐ殺す兵長。
飛田もすぐ「自決しろ!」というが、兵長が生き埋めになったらたった一人で2か月もセメントを掘り続ける……。
兵長に忠実ではあるが、仲間が「狂ったか」されないように先回りして声かけたりもしている。
軽口叩ける多田が最後までいてくれたのは良かったんじゃないだろうか。
兵長と対照的なのが、自分が生き残るためには何でもする小杉伍長。
奥さんを一人ぼっちにさせたくない気持ちが痛いほど切ない。
でも「お前が嫌いだ」という兵長は「俺だってできるならそうしたいわ」と思っていたかもしれない。
兵長は部下を最後まで統率しつつも「狂ったか」したり、伍長はゆるく楽しく接しつつ放逐して島民に迷惑かけたり。
指揮能力高く人望も厚い少尉は戦争を諦められなかったり。
誰もが完ぺきではいられない。
頼りない中尉と不真面目な伍長と人の心がない兵長しか相談相手がいないのマジしんどい。少尉しんどい。
心の支えの泉くんを失い、信頼した吉敷と田丸にも脱走されちゃう。
(結果的にはこの脱走&投降が正しかったから余計にいたたまれない)
最終的な相談相手が兵長だけとか……。
いろいろ辛いが、「何となく」知っていただけの南方戦線を、「何となく」以上に感じることができた作品でした。
最初はキャラがかわいい、好き、でもそこから深く戦争について考えるきっかけになるならいいんじゃないかと思います。
(おわり)
【全文感想】
【はじめに】
漫画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」を読みました。
可愛いぷにキャラで過酷な戦争を描いた作品です。
史実にある「ペリリュー島」での戦いを題材としていますが、キャラクターなどはフィクションです。
戦争が悲惨なことは前提として、感想としてはとても重たくて触れられないので、そのあたりとはべつの感想をちょこちょこと書かせてください。
趣味がたいがい人でなしな私ですが、題材が題材なので何をどこまで書いても良いのかと正気と狂気を行き来しました。
まずキャラがとても可愛くみんな好きになります。
この可愛いキャラじゃなかったら読もうとは思わなかったかもしれません。
特にかわいい~と思うのはお目目がガチャピンの吉敷くん。
一番好きなのは兵長大好きな飛田くんです。彼も可愛い。
戦場とは似つかわしくない彼らが悲惨な目に遭うのが胸を締め付けます。
「強く勇ましい軍人」というフィルターを剥がして、「内側には柔らかい心を持った同じ人間」として感情移入させられます。
しかし内容はハードです。
戦争モノだから肉体的にも残酷ですが、それ以上に精神にくる描写がとても多いです。
えぐい出来事の上澄みを何度も何度も繰り返すことでその下の深層を伝えようとしているのかなと感じました。
まずは島田少尉、大変だったよなと。あれで主人公と一つしか違わない22歳とは。
頼りない中尉、不真面目な伍長、人の心がない兵長しか周りに相談相手がいないの、ほんとうにしんどい……泉くんが心の支えだっただろうと思います。
最終的には相談相手が兵長だけとか……つらぁ……。
それでもどのキャラクターも掘り下げが効いているので憎めません。シンプルな絵ながら表情も絶妙です。
中尉がリンチされて丸まって泣いているのは本当に可哀想だったし、何が何でも帰りたい伍長が痛いくらい切なかったし、強い責任感で非情に徹する兵長は格好良かった。
人望熱く指揮もとれ有能だが敗戦をかたくなに信じない少尉。
ついてくる部下は最後まで世話するがすぐ「狂ったか」する兵長。
ゆるくて楽しく能力も高いが部下を放逐し島民被害を出す伍長。
誰もが完ぺきではいられない。
結果的には全部が絡み合って最後の34名生存につながっているから、何が悪いとか何が良かったなんて、後からとても言えません。
【泉くんのこと】
戦争を扱っているので怖い場面、ひどい場面はたくさんあるのですが、特に「どうしてそこまで……(泣)」となったのは、泉くんの死周辺です。
~以下、残酷シーンのネタバレ注意~
可愛らしい心は女性の兵士(泉くん)が口紅に憧れるシーン。実は同僚(高木くん)に見られていた。
↓
他と離散し一緒に隠れていた高木から「心は女の子なんでしょ! 俺わかってるから大丈夫! 一緒にずっといよ!」と脅迫気味にすがられる。
↓
憧れの少尉を探しに行くも見つけられず、米兵に撃たれ服が破けてはだけ、(ナイフが近づく→回想の構成からもしかしたら意識のあるうちに)馬乗りで唇をグニグニ割かれて死ぬ。口紅と唇真っ赤をかけている演出。
↓
少尉に会いに行く前には顔を綺麗に拭いてからにするくらい乙女だったのに、顔が動物に喰われてなくなった遺体を少尉が発見する。少尉くもらせ完了。
~~おわり~~
なぜ泉くんにここまでするのか?
冗談抜きにほとんどなるたるじゃないですか……。
高木くんは「女の子なのに大変だったよね。戦うのやめて俺と一緒にここに隠れていよう」くらいの気持ちだと思うけど、コマワリとか絵のニュアンスや泉くんの怒りが表しているのはもうちょっとえぐいもののように感じます。
同様に、米兵への遺体凌辱は、あくまで「相手を動揺させる戦略」として行われている。
(兵長は凌辱なんてどこでそんな言葉覚えたの つーか犯人お前らだったんかい)
島民への接触は、表現としては「ナンパに失敗した」ものを「強姦未遂」と扱っている。
長く続き消耗し続ける戦場では人は狂い、やってはいけないことをやってしまうことがある。しかし感情移入をまったくできなくしてはいけない。
・”史実”を扱ったフィクションである。
・日本兵にも米兵にも加害性はあったが、過剰に感じさせたら漫画として感情移入してもらえなくなる。
・感情移入してもらえなければ戦争の悲惨さや憎みあわない平和の大切さが伝わらない。
・そのうえで描くべきことは描かなければならない。
それらを考慮して今の形になっているのだと思います。
この表現の向こうにはもっと深層部分があるのだろうなと感じさせる余白がすごかったです。
(一方で何のごまかしもなく描かれた洞窟生き埋め事件……)
で、泉くんの描写。
描けなかったえぐい出来事をそのまま描かない代わりにメタファー的に描こうとしたのが泉くん周りの演出ではないだろうか?
と自分は解釈しています。※あくまで私の解釈です。
泉くんへの失言もだし、いろいろあかん過ぎるのが「高木くん」ですが、自分は高木くん、好きなんですよね。
一番好きなのは兵長大好きな飛田くんなのですが、高木くんも愛嬌のある目でびっくりするくらいあかんこと繰り返すところが放っておけない気持ちにさせます。
・食人して生き抜いた兵長→気味悪がらず「格好良いよな!」
・口紅塗っていた泉くん→言いふらしたりバカにしたりせず
「大変だったでしょ」
・島民にちょっかい→他兵と違い本当にただ純粋に「あそぼうとしてた」
悪い子じゃないよね、きっと。
両親他界、親戚とペリリューに移住して鉱夫、親戚は戦禍で死亡、自分はたった19歳(主人公たちの2つ下)で徴兵……過酷すぎる
。
高木くんが人の生死に無頓着なのは、鉱山という過酷な環境で生きてきたからかもしれません。「生き埋めだけは嫌だな~ 鉱山でもあったけど…」
ただ泉くんが死んだのを聞いた時の「泉一等兵、俺のこと何か言ってた?」「いや、死んでたならいいや」は、どういう気持ちだったか気になります。
気まずいことしてないとこんな反応にならないと思うので、”そう”は描いてないけどやっぱり”そう”だったんじゃないの? という感じはします。
まあ、「泉くんすごく怒ってた、なんかまずいこと言っちゃったみたい」というくらいの気持ちだったかもしれませんが。
【島田少尉は泉くんのことをどう思っていたのか】
少尉自身は泉くんの気持ちには気づいてはいなかったと思います。
ただ、とても自分を慕ってくれていて、自分もまた信頼している特別な部下だったのでしょう。それが泉くんにとっても一番うれしい形だったはずです。
いっぽう、主人公の田丸は口紅と少尉のショックの受け具合から、泉くんの気持ちを察しています。
漫画家志望の洞察力か、田丸自身の感受性の深さか。「よくみてよく考える」がこんなところでも発揮されています。
(ここの回想。泉くんが口紅を塗っていたのを実はみていたのに、みなかったことにして、他の人が来る前に気づかせてあげるの、田丸の優しさや賢さがでていて好きです)
生きて帰れていれば、もしかしたら、恋バナの一つくらいできる仲になれたかもしれないのに。「あの頃、島田少尉のことが好きだった」って。全力で恋してたって。そんな頃もあった
って。
もうそういう未来は絶対に来ない。その事実に泣く田丸に自分も胸が押しつぶされました。
【兵長大好きな飛田くんについて】
敵も殺す、味方も戦闘不能または「狂ったか」となればすぐに殺す人の心ないんか状態の片倉兵長。彼が率いるのが片倉分隊です。
一枚岩ではない分隊の中でも、最後の最後まで兵長の言うことを聞いて、どこまでもついていく上等兵。それが飛田竜二です。
”誰にも理解されないサイコパス系に唯一の理解者としてついていくキャラ”という私の好みど真ん中を撃ち抜かれてしまいました。
あと、身体も命も心痛すら顧みない行動は「自分のことを大事にできない男」というやべーほうの性癖にも刺さってきた。
(この言い方は飛田くんに失礼で申し訳ない)
(でも母ちゃんに島で兵長にやらされたこと全部話してみ
、泣かれるぞ。「片倉さんちにはもう遊びに行っちゃダメ」って言われるぞ)
ちっちゃくて可愛い。顔も可愛い。ご飯たべるときほっぺふくらむ。
映画版の特典として配っているポストカード、兵長ですら目線くれているのに、ガン無視なのが肉食べている高木くん。そして飛田くんです。
そうだね、彼が兵長以外に愛想して目線くれるはずがない。これはたぶん兵長に話しかけているのでしょう。
やるしかないなら頼れる上官に心身すべて預けるしかないという気持ちはわかります。
故郷(くに)に母ちゃんいるから死んでも防衛したかったのもあるでしょう。
最後の最後まで片倉兵長が大好きですが、最後の最後に母ちゃんのことも大好きなことがわかります。
すぐ「自決しろよ!」って言うのに、兵長が生き埋めになったら救出のため一人で2ヶ月セメントを掘り続ける。自分も瀕死で死にかけながら諦めず掘り続ける。なんという健気さ。
兵長も兵長で、生き埋めで精神破壊されたのに数か月で復帰。そんなタフネスをみせられたら飛田じゃなくても尊敬するしかない。
瀕死状態で発見されるも、息を吹き返してすぐに「片倉兵長殿他9名、生き埋め。何日か前まで中からも掘る音してました」と簡潔かつ正確に情報を伝えるの、軍人として優秀。
終盤、撃たれて瀕死の兵長を連れ帰って手当てしたのも飛田でしょう。(この場面。布の中から撃つ伍長がやたら格好よくて小憎い)
【2週目読み返し】
「自害しろ!」「自決しろ!」は生き埋め事件以降の発言です。
よく考えてみれば、その前に(主に高木のせいだが、他にも口止めを破られ)兵長と仲間の食人の噂が広がってしまっています。中尉なんて「そんな奴ら近づきたくもない」とまで言いました。
飛田の立場では、噂話をして仲間の名誉を汚した奴らなんだから、容赦がないのもそれはそうかもしれないです。中尉の自白が原因で上野と久保は死んでいるし。
(中尉も他の隊員も決して悪人ではありません)
逆に泉くんは世話係してたから、逃げるとき兵長に「かまうな」と言われるくらい気にしたのかもしれません。
「自分以外の仲間が生き埋めにされる」「仲良しが目の前で毒殺される」「敬愛する上司が瀕死」……。
仲間の凄惨な状態を何度も全部間近で見ているの、作中でも指折りの精神破壊されとる。そして犠牲のすべてを終戦でひっくり返された……。
最初の絶望「生き埋め」でふるふるしてたのを最後に、ずっと気を張っていて偉い。好き。
もともと現場を回すのは沖くん、川口で、飛田は真面目だけどそういうタイプではなかったのではないかと。みんなが死んで、多田も回復しきらなくて、「自分が頑張らなくちゃ」とずっと気を張っていたなら、せめて戦後、そういうの抜きに無邪気に兵長になついていてほしい
。
多田くん宛の手紙がないから、実は生きていて34名のうちの一人として帰っていないかなって、夢みたいなこと思ったりしてしまいます。
脱走を企てる吉敷と田丸に忍び寄り兵長と阿吽の呼吸で捕まえたり、忠義のみならず能力も高いです。
兵長が見張りに出したり遺体凌辱を命じるのは「沖、飛田、多田」。彼らは兵長側から見ても信頼関係のある部下だったのでしょう。
田丸の投降が結果的に正しかったことがわかり、みんなで土下座する場面。
飛田の頭をおさえて一緒に土下座させてくれる人、優しいと思いました(床屋の人だよね)。
ここでしっかり形だけでも謝らせておかないとずっと禍根が残りますからね。
飛田竜二だから次男坊なんだろうけど、ふてくされる感じとか、手の焼ける弟って感じでかわいいです。
※兄弟気質、職業気質などはフィクションとしてのステレオタイプ属性の話
床屋はお兄さんっぽい。絶対たくさん弟妹いたタイプ。
床屋さんは高木の鉱夫アピールにも「前にも聞いたぞー」と反応してあげてるし、かなり良い人だと思います。
戦後も「兵長殿は英語の勉強をされててすごいんだ」と兵長自慢の飛田くん。この自慢話の相手も床屋さんっぽく見えます。飛田くん、あまり仲間と打ち解ける感じに見えなかったけど、床屋さんは仲良くしてくれていたんでしょうね。きっと兵長殿の自慢話を聞いてくれる懐が広い相手は彼だけなんだろう。
真っ当に生きていたのにヤクザの抗争の流れ弾で死んでしまうとは……そういう立ち位置も物語上必要だったのだろうと思うけど……どおして……どおして……。「ざまみろアメ公! へへ」の業か。
もっと業を背負っていそうな兵長は企業の交渉で「今もアメリカと戦ってる」。いやすごいですこの落としどころ。生きてはいる、でもずっと戦い続けている。それが彼の背負う業との向きあい方なのかもしれません。
【投降後の場面、田丸お前が悪い】
すべてが終わり、瀕死の兵長と病人(中田)が米軍基地で入院になります。
中田くんにお見舞いをし、足を失った兵長を見てやるせない顔をする田丸。
医療施設を出たところで、よりによって飛田と遭遇!
「兵長殿なら寝ていました」と教えるも、「お前調子んのんなよ。結果はどうあれ投降はほめられたことじゃないんだ」と一言毒づかれてしまいます。
かなり性格悪く見えたり、飛田の背景を考えればいっぱいいっぱいだったんだと真面目に擁護もできますが……。
それより、田丸の「兵長殿なら寝ていました」は、よくないだろおおっと思ってしまったのは自分だけか。
いやだって、んな「兵長殿なら(中田の)隣で寝てるよ」みたいに言われたら腹立つだろ!
「なんでおめーに兵長殿が寝てるとか起きてるとか言われなきゃなんねんだよ! 何俺より先に見舞いしてんだ、調子んのんなよ」ってなるだろそりゃ!(なるのか!?)
田丸の声掛けは「中田のお見舞いに来ました(兵長はよくわかりません)」がベストだったのではないだろうか。
寝てるって言われてるのに「田丸の報告は無視! 兵長殿は寝ない!」とでも言わんばかりに大声で挨拶して入っていくの面白すぎる。
【もし兵長が先に死んでいたら、飛田くんはどうしていたか】
「自決はしないがほとんど後追いのような形で無謀突撃して死亡する」
「兵長の代わりに兵長ならどうするかと考えながら分隊の指揮をする」
どちらもありそうです。
【2週目追記】
2週目を読み返していて、疲れて動けなくなった多田くんに「大丈夫かよ」って声かけているのにぐっときてしまいました。
上野たちにも兵長に「狂ったか」されないように先回りで声掛けしているんですよね。
謀反の際に悟が「飛田には声かける?」って聞くのも、それなりに仲良かったから(あと見張りの誰かの協力必須)からでは。
けっこう分隊の仲間思いだったのではないかと思います。
いくら兵長が大好きな飛田くんでも、二人きりはきついでしょうから、多田くんが最後までいてくれてよかったのではないでしょうか。
作中で唯一軽口叩いている相手でもあります(なお軽口とやってることの歪さ)。
この後すぐに生き埋め事件になり、以降の飛田はずっと険しい表情。
兵長と多田以外のみんなを失い、多田はしゃべられなくなり……笑顔も消えてしまって当然です。
分隊のみんなが生きていたころはどんな感じだったのか気になります。「へへへ」ってよく笑ったのでしょうか。
【伍長と兵長】
ところで。
飛田くんが弟気質なのはわかるが、へへへ兵長もお兄ちゃんいる、おおお弟!?
そ、そうでしたか。何かすみません。かわ、かわいいね!?
たぶん手紙をくれたのはお兄さんだろう(宛名が殿ではなく様でかつ、中の手紙では呼び捨てだった)けど、兵長があんなに必死に「死ぬまでに敵を何人殺すかだ」と頑張る理由が国に何かあったのでしょうか。
※2週目で思ったこと。手紙が3枚あるから、もしかして兄・父・母それぞれからなのかもしれない。
※私は封筒と一緒にあるのを「中身」だと思っていたけど、封筒とは別のハガキ? だとしたら「片倉憲伸様(3枚入り)」「憲伸へ(ハガキ)」の2セットあったのか……誰からなのかはわからないけど、愛されてるよ憲伸。
ある種、お寺の子だったからこその精神の厳しさやストイックだったようにも思えます。寺は兄が継ぐから自分は死んでいいという思いもあったかもしれない。だとしたら切ないです。
「絶対に生きて帰りたかった伍長」と違って「生きて帰る理由がなかった」側なのかもしれない。
伍長の奥さんは身寄りもなくちょっと危うい雰囲気もあって、伍長がどうしても一人ぼっちにしたくないって思う気持ちはわかります。もちろん自分自身が何が何でももう一目見たい、会いたいという想いもあったでしょう。
「あんたの指 この指 好きよ 悪さばっかりするする指だけど」
いい、めちゃくちゃいい……。
対する兵長は非情だけれど、責任感からああなっているのでしょう。
だから役割を果たさない「自分だけうまく立ち回る」伍長が「お前が嫌いだ」なんでしょう。
なんなら「俺だってできるならそうしたいわ」って思っていたかもしれません。
「お前が嫌い」の前段階として、伍長による部下の放逐で島民被害を出したことを静かに責めるのが印象的です。
「あ、島民被害に怒る心があるんだ」となり、好きなシーンです。
「自分だけ賢く立ち回っているつもりか」口元が見えないが作中唯一兵長が笑う場面。伍長もハッとしている(この時の感情気になる。図星だから気まずく思ったのか、お前に何がわかるとイラついたのか)。
あのあと高木に接触したのは、ちょっと責任を感じて状況の確認をしようとしたのかもしれない。
兵長がなぜ伍長にだけ私情っぽい会話をするのかですが、もしかして周りに部下がいないときだからなんでしょうか。
「逃亡兵」だから軍人として接する必要がないもんな。でも逃亡兵扱い自体が割と私情で、そゆとこ、いいね。
上記もですし、上官に従うふりして内緒の命令を飛田たちにしたりするし、生きた兵器に見えて実はけっこう人間味があるように感じます。
伍長は吉敷たちを逃がす手引きをして、それを兵長に発見されます。
布越しに兵長を撃ち殺そうとするも、失敗して返り討ちにあってしまいます。兵長は兵長で足を撃たれて大けがをし、戦線離脱。
もし兵長が吉敷たちを独断で見張らせず、飛田を連れて見回りしていたら。
無傷で伍長をしとめて脱走兵も捕獲できたかもしれません。でも伍長も、前の遭遇で一人なのを把握していたから
勝負に出たんですよね。
このとき伍長は手を怪我しているんですが、銃撃を外したのはそれが原因ではないんです、兵長が音で気づいてよけているんです。
ノールック射撃(外していない)! からのノールック回避!
二人ともやばくてあの場面大好きです。
撃たれた時点で伍長は自分が助からないのはもうわかっていたと思うので、おとりになって兵長を引き付け時間稼ぎしようとしたのだと思います。
「奇遇だな。俺もお前が嫌いだぜ」(伍長)
これは、本気ですごく嫌いというより、兵長が子供みたいなことを言ってくるから、ノってあげた、って感じかなあと。
他より数歳年上で階級も上、子育てまでしていた伍長は、他よりだいぶ大人なんじゃないかと思います(並んで大人なのが入来さん)。
【飛田くんが好きな兵長を理解したい】
飛田くんのことを考えると、必然的に兵長にたどり着いてしまいます。
好きな人の好きなものは好きになりたいタイプなので、兵長についても分析します(!?)。
まず仕事の仕方。
指揮官ながら、敵の投げた手りゅう弾をキャッチして投げ返すという危険なうえ度胸と技量の必要な役を引き受ける。
相手に合わせて声掛けや命令内容を変える(狂人になった部下にも「今はこっちが優先」と相手に合わせた指示 あれはブラックジョークなのか?)。
「10分でしろ」(時間の指定)
「沖と飛田と多田でやれ」(具体的な指示)
「少尉殿に部下は殺せん」(理由の説明)
「なぜ我々の壕を見張っている」(即殺ではなくまず理由を聞く)
「この猿芝居はお前の仕込みか」(従犯はとがめず主犯を追及、部下の性格も把握している)
「やめろここは前線だぞ」(いじめは止める)
「お前はこれをやれ。役に立って見せろ」(命令を拒否し和を乱す部下に別のやりやすい仕事を与える)
やらせている内容はともかく、さすがは兵長だなと思いました。
少尉の前では「自分」部下の前では「俺」に一人称が変わるのも細かくて好きです。
【少尉に問いたい】
それにしても片倉分隊に入れられた吉敷くんが可哀想すぎる。なぜなじめると思ったんですか少尉?
精神参っちゃってイマジナリー田丸と会話し始めましたよ。
島田少尉には、片倉分隊のやっていた「見せしめ」をどう思っていたのかも聞きたいです。あれこそ「無法者」のやることではないのか?
見たことがなかった? わけがない。
誰がやったか知らなかった? でも全体に注意するとかそれこそ兵長に相談(お前だったんかい案件)しなかったのか?
わかっていたが「戦略」として容認していた? なんか兵長に力説されたら「ううーん」と思いつつ容認しそうな雰囲気が少尉はあるなあ。
どうだったんですか少尉?
対照的に見えますが、兵長はけっこう少尉の「情があり人間的に優しい」ところ、好きだったのではと思います。少尉のできないこと、裏で自分が全部代わりにやってあげようとしているから。
少尉がそれをわかってくれていたかはわかりませんが、不愛想な自分に気さくにそして信頼厚く接してくれたのは嬉しかったのではないでしょうか。
一方、飛田たちには「少尉殿には部下は殺せん」と、本音を話して内緒の命令をしています。もしかしたら、一緒に汚れてくれる部下がいることによる救いもどこかにあったかもしれません。
(飛田母に知られたら、泣かれ恨まれ「片倉は出禁」にされそうだけど きっとお互い墓まで持っていくね)
【多田くんの謎、他の分隊メンバー】
片倉分隊と言えば、生き埋め→食人のトラウマで「さる……さる……」しかしゃべれなくなった多田くん。
彼が終盤の宴会シーンで、「うめーのに」と急にしゃべるのが作中で一番ホラーでした。他にも恐ろしい場面は多々ありましたが、ここだけ戦争と全然関係ない、純粋なホラーではないですか?
その後何の説明も解釈も与えられない所が余計に怖いです。
推察するとすれば、「本当はもう正気に戻っていたけど、狂人のふりをしていた」でしょうか。
もうまともに兵士をするのはたくさんだから、狂ったふりをしてやり過ごしていたのでは。
そうすれば兵長の当たりもきつくならないし、飛田がお世話してくれる。
【追記】もう少し深く考えてみる。
「徐々に正気を取り戻し、だいぶ戻っていたが、心理的防衛で最後の一歩が戻らず。しゃべるのを放棄していた」くらいが正確か?
いつまでも続く島での生活で、人間に戻って猿事件を直視したり、兵士として今以上に求められたくない。
でも一緒にお酒楽しみたいのに、厳格に働き詰める飛田に、不満交じりの労りで思わず「うめーのに」と言葉が出てしまった……のでは。
【追記おわり】
理屈をつけるならそれが一番しっくりきます。
言葉がつかえなくなった相手に普通に命令したり会話している兵長と飛田、そして普通に指示通りの動きはできている多田、それぞれどんな気持ちでいたのだろうか……。
(こんな状態でも「飛田、多田」って両方の名前を呼んで命令だす兵長、えらい。雑談する飛田も偉い、仲良かったもんね……)
飛田にお酒わけてあげようとしたの、ほっこりしました(からのホラー)。
【片倉分隊、他のメンバーについて】
飛田と同じくらい兵長推しっぽいのが「沖くん」。早めに退場してしまいましたが、もし生き埋めの時、沖くんが飛田の立場だったら。
彼も2か月を掘っただろうなと思います。
同じ兵長好きでも、私のイメージでは、
沖くん→兵長率いる分隊が大好き。チーム一丸でがんばるぞ!
だから吉敷にも指導する(すればするほど距離が生まれてちょっと気の毒)。たぶん、生き埋めが兵長ではなく他の分隊メンバーだけだったとしても、独断で動けたなら穴を掘り続けたと思います。勝算関係なく何なら助からないなら一緒に野垂れ死ぬくらいの気持ちで。
飛田くん→兵長が大好き。盲目的よりは自分で納得してついていっている。
他の隊員も大事だけど作戦で死んでいくのは仕方がない(自分含めて)。
生き埋めが他の分隊メンバーだけだった場合……意外と頑張って掘りそうな気がしますが、どこかで諦めたかも。2か月掘れたのは「兵長なら生きてそう」というのと、「この戦場で兵長を失う不安」
で諦めきれなかったのではないかと。
いつごろから中からの掘る音が聞こえ始めたかわかりませんが、音で生きているのがわかってしまったら、そりゃあ諦められなくなるよなあ。
外伝みていると、命令は「沖、飛田、多田」の順番。でも兵長の隣を一番キープしているのは飛田くん。本当に兵長大好きで健気でたまらなく愛しい。
山下、川口、悟、健二。と吉敷。みんなそれぞれキャラが立っているし人間としていいなと思える部分が合って素敵でした。
【おわりに】
触れたキャラ以外でもみんなが魅力的な作品です。
全員良い部分もあれば悪い部分もあり「人間」だなあと思わされます。
また、「感動した!」という単純な感想しか出てこないので書きませんが、他にも数えきれないくらい心に残ったシーンがあります。というかほぼ全編がそうです!
戦争についても深く考えさせられます。何となく知っていた南方の戦いを、何となく以上のものとして感じることができました。
(何を言っても下手なことにしかならなそうなので、書かないことをお許しください)
余談
私は作品を読みながら勝手にイメージソングをつけるのが好きです。
「愛と幻想のファシズム」はサザンオールスターズの「闘う戦士たちへ愛を込めて」だと思いました。
男の戦いという意味では共通していますが……。
「ペリリュー 楽園のゲルニカ」は「現代東京奇譚」だなあと思っています。やはり戦いの中でも人の尊厳にフォーカスされた話なので。
兵隊さんたちもだし、戦後の”残された側”も。
人は強いだけではいられない。男も女も関係ない。
