映画『嘘喰い』〜原作ファン目線での感想〜
2022年上映(日本)
監督、中田秀夫 脚本、江良至/大石哲也 原作、迫稔雄 キャスト、横浜流星 佐藤勇斗 白石麻衣
※ネタバレあり
ギャンブルを取り仕切る裏組織「賭郎」。通称”嘘喰い”こと斑目貘は、そのトップ「お屋形様」と命を賭けた勝負「屋形越え」を挑み負けてしまった。三年後、命以外を奪いつくされ落ちぶれて生活していた貘の耳に、「屋形越え」を挑もうとするギャンブラーの噂が入る。自分こそが屋形越えをしたい貘は、仲間の手を借りながらその相手・佐田国にたどり着く――。
映画「嘘喰い」を観てきました。
原作の嘘喰いが大好きで全巻読んでいます。
ですので今回は原作ファン目線で映画「嘘喰い」について感想を書きます。原作のネタバレがありますのでご注意ください。
なおあくまで私の感想なので原作ファンでも全く違う感想となる方もいると思います。
予告編やポスターの印象としては、正直、「だいぶ改変してる?」という感じで、不安がありました。特にちらっと見てしまったネタバレで「鞍馬蘭子と恋愛する」とあって、そっち系にいっちゃうかーと。
でも元々のネタ自体が面白いので、キャラクターやストーリーに多少改変があっても大丈夫だろうと観に行くことにしました。
それに貘さんと蘭子姐さんの恋愛って、逆にちょっと興味湧く(笑)。
というわけであまり期待値は高く持たないようにして観に行ったのですが……
「斑目貘が予想以上に斑目貘で超よかった!」
です!
実写で再現は難しかろうと思っていた貘さんの人たらしな雰囲気を良く出していました。
斑目貘は原作でも派手なスーツを好んで着るのですが、映画でもワインレッドや白のスーツを着こなしていました。
銀髪であの衣装を着て、さらに軽々しい言動なのに品がよいところがすごいです。
横浜流星さん、よい役者さん。覚えておきます。
生身の貘さんが観られるだけでも眼福で観る価値のある映画でした。
映画オリジナルとしてハーモニカを吹くシーンがあったのをカットしたそうですが、一体どのシーンでハーモニカを吹く予定だったのかいっそ気になります(笑)。
といっても原作とまったく同じわけではありません。
原作の貘さんから「凄みと初心さ」を引いて「人たらし」感を1割増しにした感じです。
でも原作でよくあるやばい感じの表情↓
(嘘喰い40巻84p)
をやってくれました。(実写でできるんだこの顔……すげぇ)
これが序盤に一回あるだけでただの優男じゃないのが印象付けられてよかったです。凄みも必要なシーンではちゃんとありますし。
また、人たらし全開でセーフかアウトかギリギリをついてくる貘さんも、「アリ」だ(キリッ)。
原作の貘さんは人との付き合いがよくわからなくて距離なしになってる感じ(と私は分析している)だけど、映画の貘さんは完璧に計算してやっているだろうな……(笑)。
ちなみに原作の貘さん。
(初期)
(嘘喰い 4巻 123p)
(中期)
(嘘喰い9感 30〜31p)萌え袖……。
(後期)
(嘘喰い40巻 38p) (嘘喰い34巻 154p)
映画のは後期の雰囲気に近かったです。
ちなみに私は中期〜後期途中の男っぽさと儚さが混在した感じが一番好みです。
梶ちゃんがショタ感強めなのは、貘さんの凄みや渋みが少ない分バランスを取るためなのでしょう。
梶ちゃんにしても目蒲くんにしても、こんな可愛い成人男性どこから連れてきたんだ? というくらいショタ系で可愛い雰囲気でした。
貘さんもですが、漫画より実写の方がキャラクターが中性的になるって珍しい気がします。
梶ちゃんは副主人公であり、観客(読者)目線の超重要なキャラクターです。梶くんの成長も嘘喰いの見どころの一つです。
可愛げになっていることを除けば原作とほぼ同じキャラクター性で文句なしです。カジノで貘さんとガッツポーズするところとか頭ポンポンされているところとかよかったです。同年代みたいに一緒にはしゃげるけど、貘さんのほうが多分年上、というのが伝わります。
余談:原作でユッキーに過去を述懐するときハルに「貘兄ぃ」って呼ばせてるのからも感じたけど、貘さんって多分お兄ちゃんぶりたいタイプなんだろうな(笑)。でも現実には甘えたがりなところもある。そういうところが人間らしくて好き。15歳でギャンブラーやっている点からして、おそらくすごく孤独な生活してたと思うから、慕われたり慕ったりそういう関係に根源的には憧れがあるのだと思う。
借金が母親に背負わされている物ではなく、友達の連帯保証人になったのが原因と変更されていました。これは実際に改変されたのか、恥ずかしくて貘さんにはそう説明したのかどちらなのだろう?
原作の目蒲くんも好きなのですが、映画の目蒲くんもよかったです。 この儚げな目蒲くんが一体どんな風に「うっせえこの変眉ジジイ!」と豹変してくれるの!? 楽しみ!! と思っていたのですが、最後まで健気にお亡くなりになりました
。
ここはちょっと残念。豹変する! 目蒲くんが見たかった!!
(嘘喰い5巻 205p)
あとせっかくだから、號奪戦の説明なくてもよいから、ハンカチは投げて欲しかったなあ。絵になりましたよ、きっと。
夜行さんはビジュアルだけ見ると原作のシュッとした感がなくて不安だったのですが、動いてしゃべると格好いい! 夜行さんのスマートな雰囲気に渋みも加わっていてすごく良かったです。ちゃんとお帽子も持っているところグッドです。
演じているのは村上弘明さん。必殺仕事人シリーズの「花屋(鍛冶屋)の政」さん格好良かったです。政さんが年を取って夜行さんになるというのは、何だか嬉しい。
そういえば「貘様」ではなく「斑目様」と呼んでいました。
たしかに原作、何で貘だけ貘様って呼ぶのかと思いましたからね(主人公だからです)。賭郎のパーフェクト取立人がえこひいきか!?(主人公だからです。ルールに抵触しない程度にはえこひいきもあります)
マルコはお面には困惑しました(すごい禍々しかった)が、ちゃんとマルコでよかったです。すばらしい鉈さばきで料理するのは面白かった(笑)。原作では観られない新たなマルコでした。後半の活躍はありませんでしたが、尺を考えると仕方がないかなと思いました。
ただちょっと弱すぎた
。こんなあっさり倒してしまうのかと。
お屋形様のルービックキューブを回転させるのを再現していたのに感動しました。やるの大変だったのでは。登場シーンは多くありませんでしたが、印象強かったです。
冒頭の港町でのシーンに出てきた立会人はオリジナル? それとも実は伽羅さん
?
いずれにせよ彼もまた嘘喰いに魅せられてしまった立会人の一人なのでしょう……。
どのポスターや予告編からの予想よりも実際の映画は良いシーンが多かったです。
一方、これはどうなの? と思ったキャラクター改変についても。 嘘喰い好きだし続編も観てみたいって思うから、あんまりネガティブなこと言いたくないんだけど、言いたくないんだけど……!
まず佐田国。
原作では狂信的なテロリストだったのですが、映画では元サイエンティストとなっていました。素晴らしい研究を利益の為ではなく世界の為に使おうとした結果、政治家に攻撃を受け失明してしまうという悲劇的なキャラクターです。
同じ研究員だった女性と一緒に、復讐と研究の実現(だったっけ?)のために資金を得ようと賭郎で屋形越えを目指しています。
キャラクター自体はよいし、女性研究員もよいキャラしてたし、二人の関係もよかったんだけどさ……!
こういう人にされちゃうと、首吊りの後味が悪くなっちゃうっ……!!
狂ったテロリストだからこそ「お前はただの お お う そ つ き だ」からの首吊り
が恐ろしくも腑に落ちるわけで、可哀想な過去持ちで世界平和目指しているような人が首吊って死ぬというのは、観たくなかったなというのが本音です。
これだったら原作のラビリンス編みたいに、理由つけて首吊り免除で終わってくれる方が良かったです。
「嘘喰い」という漫画は、ハードな描写が多いわりに道徳観のしっかりした健全な作品なのです
。主人公サイドとバトルして死んだ相手は、真底外道な悪人ばかりです。
映画の佐田国のようなタイプの場合、貘さんの性格を考えれば屁理屈で助けたりそもそも互いの命を賭けるような状況は作らなかったりしたのではないかと思います。夜行さんだってそういうのを汲み取れないタイプの立会人ではありません。
せめて側近の女性は助けてほしかった。
というかギリギリまで「言うて助かるやろ」と思っていました。梶ちゃんと貘みたいに梶の会員権で貘が代打ちしているわけでもない、ただ側近としているだけの相手です。殺す必然性はなかったと思います。
ただ「世界平和」についてのやり取りは好きです。
また、テロリストという表現は使っていませんが、やっていることはそうです。しかし映画の佐田国の考えには同情したり共感する作りになっています。テロリストだけど……そう思うと、深い話です。
そして鞍馬蘭子。
映画だしヒロイン枠が欲しいの分かります。それはいいです。恋愛要素があるのも全然セーフのラインです
(くっついたりする空気じゃなくて良かった。ただ投げキッスは人たらしの枠を超えて悪質に感じてちょっと嫌だったw)。
どうしても許せないのは一点。
鞍馬蘭子を斑目貘より格下っぽく扱っていること。
彼女には貘と並ぶ風格を出していてほしかったです。
分かりやすく言えばルパン三世の峰不二子や銀河鉄道999のメーテルをこんな風にしちゃうか? と。そう考えるとあの格下感や小者感は致命的だと思います。
お飾りのヒロインならヒロインではなくてよかったのではと思います。
原作の蘭子はこうですからね。
(嘘喰い4巻 87p)
「私のギャンブルにイカサマは無いんだよ!!」なんて言う格好いいセリフもあったのですが……。
ヒロイン化してもいいんです。でも5億も資産があるヤクザの組長としての貫禄は崩してほしくなかった。
貫禄すごいのにたまに乙女になっちゃう、とかでも充分可愛くできたと思います。
ちなみに原作の蘭子さんは嘘喰いとはお互い一目置いてるって感じだし、夜行さんのファンだし、私的解釈では落ち着いた頃にレオに引き取られてたらいいなと思ってる←
映画内では貘にしてやられ、佐田国にしてやられ……とあまりにも良いところがない。5億の出資も好きな男に貢いじゃってる感が出て全然格好良くない……。
漫画の蘭子さんも負けることがけっこうありますが(笑)、負けてもなお風格があるところが彼女はすごいんです。負けているのに全然負けていると感じさせないふるまいができる女なんです。仮に惚れてて5億出すにしても、貢いでいるように見えちゃう空気は出さないです。実際がどうあれ「恵んでやってる」とか「あんたが勝つことに張るよ」って感じに見せるんです。
自己プロデュースがうまいのです。あるいはもっと堂々と自信満々に「あんたに惚れてるから出すんだよ」って言うと思います。
または映画の展開であっても、普段がしっかり貫禄あるふるまいだったなら貢いでいるようには見えなかったと思います。(まあ貢ぐと言っても勝てばこのお金はもっと大金となって返ってくるのですが)
あるいは可愛くするならするで、もっと徹底的に可愛いキャラにしたほうが中途半端にならなくてよかったと思います。徹底的に可愛いのに裏カジノのオーナーでヤクザの組長……それなら観てみたい。
役者さんは役柄通りに演じているのですから悪くないです。では監督か? 映画業界の風潮か? とにかくどうしてこうなっちゃったの? と思います。
今作に限らず映画化するにあたりヒロイン枠が作られることが多いですが、作るなら作るで本気で作り込んでほしいです。ヒーロー(主人公)の対がヒロインなのですから、ヒーローと同格に扱うくらいの気概で作ってほしい。
映画の斑目貘を観ていれば、あれほど格好良くて賭けも強い男がいたらそりゃ女の賭郎会員はみんな惚れるわな、と思うので、蘭子が惚れているのはアリだと思うのですがね。
むしろ「魔性」と評されているのに男にしかモテない
(ギャンブラーとして)原作のほうがおかしい。
まあ原作の貘さんは格好いいけど、女にモテそうかといえばちょっと違うような感じはする。めっちゃ色気あるけど、それがまったく女性に向いていない、ギャンブルにしか向いていない感じ狂っていて好き。何でギャンブルで色気出るの? ギャンブルにしか興奮できない体なの?(鼻血出す姿にお屋形様が「まともじゃない」ってひどく真っ当なツッコミいれてた)
ラブコメのパートは面白いし可愛かったので、問題はやはり貘や佐田国に連続で負けているところでしょうか。
服装が毎回変わったりとか、原作の蘭子にもある要素なので決して軽んじていたわけではないと思うのですが……。
なぜこうなのかいろいろ考えてみました。
映画の蘭子はレオたちに「お嬢」と呼ばれています。もしかしたら組長として日が浅いのかもしれません。父が急逝するなりして、いきなり組とカジノを引き継ぐことになって四苦八苦している最中なのかも……。
だからこの蘭子ちゃんも、五年も経てばこうなって、
嘘喰いのことなんて忘れて、さらに五年くらいたって人間としても落ち着いて来たら、レオにもらってもらおうよ!(あくまで解釈はこれ)
全体的にキャラクターが普通になっていて、原作のあのクレイジーに振り切った感が全然ないのは物足りなかったです。
クレイジー感感じたのが最初の貘さんの顔だけという……。
〜ストーリー構成〜
お屋形様との航空機制圧失敗→港町で落ちぶれてる貘→仲間・梶ちゃんとの出会い→賭郎会員権ほしくてQ太郎とバトル→ハングマン→エピローグ(一年後 お屋形様とハンカチ落とし始まる寸前)
この構成は楽しかったです。特にラストハンカチ落としの寸前で終わる感じ、ワクワクしました。
これから続編でこの一年後に至るまでの過程をやるんですねそうですね!?
一つの映画としてまとめるなら屋形越えが目的→屋形越えに挑むところまで入れないと成立しないですから、この構成は映画だけ観る人にとっても良いと思いました。
ハングマンの人主のシーンに男色家っぽい人がいたり(漫画でいえばもうここにいないと思うけどw)、原作を読み込んで小ネタ入れてきている感じがありそれも好印象。
観に行こうと思った理由の一つに、原作では内容が描かれていない「航空機制圧バトル」が観られそう、というのがありました。
結論としてはあまり掘り下げられてはいませんでした。でもビルの屋上に光る賭郎マークなど、演出はワクワクして実写で、音と色が付いた状態で観られてよかったです
。
マイナス点→斑目貘の仲間を撃ち殺しては欲しくなかったです。賭郎はこんなことしないと思うし、貘も利害だけのつながりだとしても協力者を死なせる状況は避ける(避けられる)と思います。
港町や蘭子との賭けなど、原作にないネタが入っているのは面白かったです。
立会人たちの集まりがバーチャルで順番に消えていくシーンは、いかにも悪の組織感があって面白かったです(笑)。賭郎の雰囲気は全体的に素敵で、実写で観られてよかったです。
全体的には緩くてあっさりしていたなーと感じました。
原作の「嘘喰い」ってしばしばホラーチックで怖い演出があるんです
。そこが魅力でもあります。
監督は「リング」などホラー系で有名な方ですので、首吊りへの恐怖とかもっともっと深く執拗に描くことは出来たはずです。
やろうと思えば全体的にもっともっとすごく怖い空気感にも出来たと思います。
そうしなかったのは「嘘喰い」という作品へのある種の誠意を感じて、作品としてはともかく(※)、監督のスタンスに好感を抱きました。
繰り返しですが「嘘喰い」は根底の部分には道徳があり健全な作品なので、悪趣味に露悪的な部分ばかり強調するくらいなら今作くらいさっぱりしてくれたほうが個人的には嬉しいです
。
※でもハングマンで吊られるところとか、めちゃくちゃ怖い演出でやったの観て見たかったw そのためにもやっぱり佐田ちゃんは狂ったテロリストであってほしかったよね。
あっさりで言えば、残念だったのは原作屈指のシーンである「手札覗き」でした
。
あそこがあっさりなうえ迫力もなくて、実写でそこを観たいと思っていただけに残念でした。
もっと! 蘭子に抱き着いたくらいの距離感で! 佐田ちゃんのカードを覗いて!! ゼーゼー言ってる佐田ちゃんのすぐ横で悪魔的な微笑みでカードの確認をして!!
(まともじゃない)
Q太郎の屋敷での勝負は、いや、「そうはならんやろ」と(笑)。何で弾当たらないのー!?
なるほど! すごい! こうやって生き残ったのか!! と、もっと衝撃と感動を味わいたかったです。
でもこの尺の中で原作通りの賭け事+オリジナル要素も入れててんこ盛りで見せてもらえたのは楽しかったです
。観ていて飽きるところがありませんでした。
佐田国のキャラ改変による展開の後味の悪さ。そして鞍馬蘭子の風格をなくしてしまったこと。手札を覗くシーンの扱いの軽さ。
この三つだけは自分的にはナシでした。
他は多少気になっても許容範囲でした。
続編はぜひ観てみたいです。そのときには蘭子の扱いをもっとよくしてくれたらと切に希望します。
〜そのほか(嫌だったとかではなくただのツッコミ)〜
原作から気になっていたことだけどカリ梅種ないの?
種も飲み込んじゃってるの? こっそり吐き捨ててるの?
動画で見せられるとカリ梅のみ込んでるのに種が観測されないのが余計に気になる。カリッ、カリッって音出して明らかに食べてるのに種がない、怖い。怖いよ!
(原作では種を吐き出している場面も稀にある)
あと、もう一つ!
主題歌の「リヴ」(B'z)がとても良かったです。
〜最後に〜
映画化にあたり色々取捨選択しなければならない中でそれでも「一番肝心なものは失わなかった」(貘の夢とか)、ちゃんと織り込んでくれた作品。製作陣に感謝いたします。
(クロックロの書斎LINEスタンプ)
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◆目次◆
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絵本「その先と」
原作
カリ梅
ルービックキューブ
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