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『愛と幻想のファシズム』〜若者たちの夢の果て〜

単行本 1987年出版(日本)

著作、村上龍

 ※ネタバレ含む

 

 これは、主人公鈴原冬二が、ゼロという男に出会い、結社を作って世界制服を目指す話です。  

 面白いです。
 実に現実的な手段で結社「狩猟社」が力を付けていく様が描かれています。もしかしたら、本当にできるかもしれない。そう思える描き方です。たいていは陳腐になる題材を真面目にさばく力は、さすが村上龍だと思います。
 政治や経済の話は、正直自分にはさっぱりわからず、退屈とも言えるんですが、それでも読書が続いているのは、狩猟社がどんどんのし上がっていく様が面白いからです。

 あとは、キャラクターの魅力によるところが大きいでしょう。
 主人公は鈴原冬二。相方は相田剣介、通称ゼロ。相田の恋人、フルーツ。洞木。千屋。山岸。

 私はゼロが好きです。彼は芸術家タイプの、非常に繊細な人間です。幼稚で女々しくて甘ったれでいろいろダメな奴なんですが、そういうところが好きです。彼の弱さが私は好きです。
 鈴原は正反対で、強い男です。冷徹で合理主義で強さを求める男です。狩りが趣味で、動物好きの私とは相容れぬものがあります(彼が動物嫌いとは思いません)。しかし、そんな鈴原はゼロに惹かれているのです。この一点があるから、私は鈴原を嫌いにならずに読むことができます。
 ※これは読んだ当初の感想です。トウジは動物を対等に観て、敬意を払ったうえでの狩りなので嫌な気持ちはないというのが現在の心境(2017年)。  

 人間には二種類あります。強い人間と弱い人間です。そして、強い人間に惹かれるタイプと、弱い人間に惹かれるタイプがあります(私は後者です)。
 この両方を主要に置いたら、キャラ配置としたら最強でしょうね。双方が惹かれあっていたなら、読者も片方を嫌いになることはないでしょう。好きなキャラを通して、相手のキャラにも感情移入できるからです。

 そして、今作品のキャラの魅力は、何と言っても等身大の部分を持っているからでしょう。 狩猟社は、やっていることはとんでもないのに、個々人には私たちの理解できる一面があります。
 鈴原は、家族のことを大切にし、時々両親の元に里帰りします。両親は普通の人です。この普通の両親と、普通に会話する鈴原を見ると、彼も普通の人間なのだと親近感を覚えます。
 ゼロは、恋人であるフルーツを大切にしています。そして、趣味の映画製作の話になると、子どものように無邪気になります。メンバーの中では彼が一番人間らしいと思います。
 洞木は、娘や妻。自分の家族を大切にしています。
 千屋さんは、影が薄いです。
 山岸は、十代の若者でありながら親衛隊クロマニヨンの隊長です。しかし、その言動は年齢相応の無邪気さや青さを感じさせます。
 キャラクターの親近感というのは、本当に大切だと思います。

 そして、狩猟社内の人間関係が、何だか、普通に学生のクラス内派閥みたいで笑ってしまいます。
 最初に鈴原と仲良くなったのはゼロ。でも、後から仲良くなった皆とゼロは気が合わず、ハブにされてる。皆はゼロを疎ましがるが、鈴原はゼロを見捨てることができず、板ばさみになる。ゼロは問題行動を起こすたびに、一人でうじうじする。フルーツはゼロにうんざりしてくる。そして鈴原とゼロ、フルーツの三角関係……なんですかこの中学生日記は。

 また、知り合いが一時期「スイーツ(笑)←ドキンちゃんみたいな女の子を揶揄した言葉」という単語をやたらめったら使ってました。そのせいで、フルーツがスイーツに見えるという事態に見舞われました。
 どうしてくれるんですか。
 スイーツはいい女なのに。
 違った、フルーツだった。

 どうしてくれるんですか。

 しかしゼロって本当にダメですよね。上巻の終わりなんて、今にも死にそうで、「いつ死ぬか、いつ死ぬか」と思いながら読んでいたんですが、ちょっと嬉しいことがあると、あっという間に蘇生します。これじゃあ、鈴原もムカつくだろうし、フルーツも愛想を尽かすし、仲間には疎まれますよ。でもそこがいいのです。

〜ゼロ終了のお知らせ〜

 私は、最初に、「狩猟社が世界制服を目指す話」と説明を書きましたが、違いました。これは、狩猟社の話ではなく、冬二とゼロの物語なんですね。
 鈴原冬二がゼロと出会うことで物語が始まり、そして、ゼロの自殺によって物語が終わる。ゼロに始まりゼロに終わる物語でした。

 狩猟社が日本政府を手中に収める前に、物語は終わります。しかし、結果だけ見ればかなり順調に力を付けていきました。ゼロの自殺を除けば、特に恐ろしい事態も起こらないまま、結果を見ずに終わってしまいました。しかし、これはバッドエンドに近いでしょう。冬二の心にあるのは、勝利に向かう喜びではなく、「何でこんなことになったんだろう」という、寂寥感のはずです。すべてはうまくいっている、でも、自分が求めたのはこんなものではなかったはずだ……そういう気持ちだと思います。

 口では弱者を排除するといっているが、その実、自分より弱い相手を見ていないと平安を保てない、結局は冬二も完璧にはなりえない男でした。だから彼にはゼロが必要だった。でもアル中で手首切ったりなんかしちゃうダメ男ゼロは変わってしまった。『巨大なる祈り』なんてすんばらしいイベントをやってのけるゲッベルス以上の出来る男になってしまった。だから酔っ払ってゼロに死ねと言ったら、ゼロ死んじゃった。

 馬鹿としかいいようがないです。

 最後を見て、初めて冬二が可哀想だと思いました。

 ゼロが死に、フルーツもどこへともなく去りました。結局、どんなに腐ってもフルーツはゼロの恋人だったんでしょう。ゼロと言う共通項を持たなければ冬二とフルーツの関係は成立しないわけです。二人にとって良くも悪くもゼロはやっぱり特別な存在だったんでしょう。
 そんなに考えると、この話の主人公は冬二ではなくゼロだったのかもしれません。

 村上さんいわく、この三人はコインロッカーベイビーズの三人でもあり(私は読んでませんが)、これからも他の作品で生まれ変わっていくんだそうです。作品の中で何度も輪廻するんですね。
 とすれば、『希望の国のエクソダス』の主人公、その恋人、ポンちゃんは、ゼロ、フルーツ、冬二ってことになりそうです。あの話ではみんな幸せに終わりました。良かったです。
 本来、愛と幻想のファシズムって、もっと政治的なことを知るために読む作品な気がしますが、そういうのはノーコメントで。私はただ、ゼロが好きだから最後まで読んだのです。

 何が言いたかったかと言うと、文庫本を閉じる瞬間って何でこんなに切ないんだろう、ということです。

 そしてこの話の本当にすごいところは、1980年代の作品にも関わらず、まるで今の日本(2012年)を予言したような内容だということでしょう。

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